乙女たちの幻想曲 第3回 稲妻が走るとき
ほどなく、彼らは、今度は反対側の柵のそばに移動した。彼らは、すっかり雨に濡れたアスファルトの中庭を見下ろしていた。すると突然、雷斗が下のほうを指さして言った。
「あ、あそこ…」
真実子は、彼の指す方向を見ると、そこにはマンホールがあった。
「俺、ここから突き落とされて、あそこに激突したんだよ」
「ええっ!?ど、どういうこと?」
真実子は、目をパッチリ見開いて雷斗を見た。
「前に、変な遊びでこの屋上のへりを歩いたことがあってさ。そのとき、友達の1人に横から軽く押された」
彼の言葉を聞いて、彼女の顔に恐れの色が表れた。
「それでよく生きてたわね」
「ああ…」
曇っていた彼の表情は、一段と曇った。空では、限りなく黒に近い灰色の雲がひしめき合い、苛立つようにうなった。
「それから5日ぐらいして、俺は意識が戻った。でも、退院して2日後…」
雷斗がそう言ったとき、強い閃光に続き、ひときわ大きな雷鳴が轟いた。真実子は縮こまって目を強くつぶり、耳をふさいで大声を上げた。
しばらくして、彼女が再び目を開いて向き直ると、そこに雷斗の姿はなかった。真実子は床に倒れ込んで両手を突き、さっきまであの美少年が居た所を見るばかりだった。
。
作品名:乙女たちの幻想曲 第3回 稲妻が走るとき 作家名:藍城 舞美