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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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乙女たちの幻想曲 第3回 稲妻が走るとき

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稲妻が走るとき


 小平真実子(こだいら まみこ)は、いつかこんな夢を見た。

 真実子の通う学校の昼休みの教室で、生徒たちは教室の後ろにある黒板に「恣意優院戸文(しいゆういんへぶん)」などというたわいもない落書きをしたり、腕相撲大会をしたりなど、いろいろな楽しいことをしていた。彼女は自分の席に着いて日本史の教科書を開いて見ていた。
 楽しそうな生徒たちとは対照的に、教室の外ではどこまでも濃い灰色の空が不機嫌そうにうなったあと、空一面が強く光り、轟音をもって感情を爆発させた。生徒たちは、荒ぶる空におびえる様子を全く見せない。

 その直後、真実子の机にスキップするように近付き、
「ま〜みこっ」
 という声とともに、机上に両手を置いた者が居た。彼女が気付いて前方を見ると、目つきは悪いが美形と言っていい外見の短髪の少年が居た。彼は真実子と目が合うと、唇の片端を上げた。真実子は、見覚えのない顔の少年を見て、首をかしげた。
「ごめんなさい、あなた、誰?」
 彼女の問いに、少年は下を向いて軽く笑うと、
「おいおい、忘れたのかよ。一年のとき、同じクラスだった木田雷斗(きだ らいと)だよ」
 「木田雷斗」という名前の生徒は、彼女の記憶の限りでは浮かんでこない。彼女は、迷いを残したままの目で、雷斗と名乗る少年を見た。
「何だよ、俺の髪とかに何か付いてる?」
「いいえ、そういうわけじゃないけど…」
 彼は軽くため息をついた。
「ま、それはいいや。ところでさ、屋上行こう」
 「屋上」と聞いて、真実子は眉間に僅かにしわを寄せて窓の外を見た。
「屋上って、今、外は雨降ってるけど?」
「ああ、降ってるな。それが何か?」
「いえ…」
 真実子は、外に出るのをためらう理由が出てこなかった。
「だったら、行こうぜ。ほら、立てよ」
 雷斗は真実子の左の袖を軽くつかむと、強めに上に引いた。彼女は彼の勢いに負け、椅子から立つと教室を出て階段を上り、突き当りの水飲み場の向かいにある数段の階段を上ってドアを通ると、屋上に出た。