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みやこたまち
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novelistID. 50004
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インタルジア -受胎告知―

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pie.4 1.十八歳の装置


  
 ガラス繊維の糸にはそれぞれ特別な染色を施してある。それが複雑にうねっているのは、生き餌に知性を与えたかのような不気味さを感じさせる。表面はガラス板に覆われていて、その表面には特殊変数によって歪曲した方眼がコンマ何ミリかの精度で刻まれている。糸は左端から右端に向かって蠢いているがその進行はまどろっこしい程気まぐれで、時折他の糸と干渉しあってさらに複雑な動きを見せる。

「この青いのが僕だ」

 そう言って指さしたのは、他の糸よりも一段前に飛び出している透き通ったラインだ。上下左右のみならず、前後運動も行っており、奥へ引っ込んだ拍子に他のラインと折衝しそうな危うさですれ違い、再び前方へ飛び出して来るといった動きを見せている。

「裏を見せようか」

 私が頷くと、彼は裏板を取り外し、精巧な時計に似た歯車の仕掛けを明らかにした。

「横軸は時間だ。そして縦軸は距離だ」
「良く分からないな」

 私がそう言うと彼は頷きながら機械を元に戻した。表面の方眼の一本が朱色に光っているのが目に留まり、私は尋ねた。

「つまり、これが現在さ」

 彼の青い糸は方眼の湾曲の為、左へ進みながらも右へと戻っているように見えた。私はしばらくこの装置を眺めていた。すると、青い糸以外の全てのラインが根元の方で交わり一本の太い綱のようになって青いラインを絡め取るように動き出した。

「君のはあの黄色いやつだよ」

 彼は何食わぬ顔でそう言い放ち、コーヒーを入れるために出ていってしまった。始めて彼の部屋に招かれた、十八の歳の秋の事である。

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※この機械の複製だと岸田氏の言う品物は私の手元にある。彼の存在が岸田氏の過去にどれほど大きな影響を与えているのかを、私はこの時に知った。日々の作業の中に付加されたこの「語り」は、なぜだか私に取って見過ごす事の出来ない出会いを確信させる。私が興味を持ったのは、この複製のアルミ箱では無く、岸田氏が今まで秘匿していた「彼」の存在だったのだろう。原型を欠いた複製から再び原型を形成する試みとして、私は岸田氏の語る「彼」の面影をここに収集する。
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