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カフェ・テクタ2 連続嗜虐

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「歯ごたえのしっかりしたイングリッシュマフィンは、表面がかりかりで大好きよ。ふうん、なかはトロッとしているのねえ。今日はアンチョビじゃなくて、サーモンを添えている。半熟卵とチーズがたまらないね」
 県道228号線でサンドイッチ屋を営む常連の女性客、志枝は、年季の入った額にますます皺を寄せた。「ねえ、佐々(ささ)さん、このソースのレシピを教えて」
 俺は頷き、黄色いソースを作る手順をメモに書いた。
「それにしても」
 客はドアの外を眺めた。
「彼女、妊婦だってのに、まだ綺麗ね。でもお腹もだんだんと目立ってきたのね。無事に生まれるといいんだけど」
 俺は手を止めて尋ねた。
「彼女のこと、ご存知なんですか?」
「ええ、鏡町の役場でひととき働いていた人よ。何度かサンドイッチを買ってくれた」
 志枝は昼食時に役場に入り込み、サンドイッチを売る仕事を25年以上も続けている。
「影があるけど、落ち着きがあって、惹き込まれるような美人だから夢中になる男は多かった。でもちょっと前に役所をやめたのよね。未婚のまま妊娠したらしくて、不謹慎だからっていうんで、職場に居づらくなったんじゃないかしら。同僚の女性にひどい嫌がらせを受けていたようよ。それに、彼女は、あなたの……」
 白髪混じりの眉をひそめた。
「あなたの奥さんと同じ部署にいたはずよ。地籍調査課だったかしら」
 ぎょっとした。エマは妻の同僚だったのだ。エマは俺が直子の夫だと知って店に来たのだろうか。女の視線をもう一度思い出す。紫がかった知的な色。なにかを探るようでもあったし、何も知らないようでもあった。
 ただ凶暴なまでに謎めいていた。
 風が窓を叩く。妻、直子。雨雲が、平たい屋根を押しつぶそうとしている。病室のベッドでうつむく直子の痩せた肩を思い出す。こっちを見上げる息子のタリヤも。あの涙の溜まった幼い目。
 体に電流が走る。
「奥さんはお元気? まだ入院しているのかしら」
「ええ」
「回復は」
「もう少し、かかりそうです」
「それは痛ましいわね。坊やは?」
 施設の面会時間は午後6時までだからなかなか逢えない、と言葉を絞り出そうとした。俺たちは、ある日突然、タリヤと引き離されたのだった。養育困難の要件だった。俺たちの言い分は聞き届けられなかった。母親は長期療養を要する事態。いっぽうで働くしか能のない俺は父親失格者の烙印を押し付けられた。胸ぐらを露わにされ、赤々と燃える焼鏝で、皮膚にじゅうじゅうと烙印者の印を刻まれたのだった。
 途切れ途切れに息を吐いて、何かを応えようとするうち、志枝は傷んだ指で俺の手を握った。その肌はやさしく乾いていた。
「離れて暮らしていても、愛は消えないのよ」
「タリヤはまだ1歳ですし」
「離れていても、伝わるのよ」