からっ風と、繭の郷の子守唄 第101話~105話
美和子が言い当てたように、康平には女性病いに関する知識がまったく無い。
生理の周期に関する知識にすら、持っていない。
女性のもつ生殖のための臓器が、病気にかかりやすいという事実を知らない。
康平の保健衛生に関する知識は、中学生以下のレベルといえる。
「子宮頸がんで、クラス3a~bという診断を受けています。
長期の定期検査を続けています。いまは、経過を観察中です」
美和子が、ついに病名を口にする。
『クラス3の子宮頸がんなら、簡単な手術かワクチンで対応できるはずですが、
意外に深刻な事態という事かしらねぇ?』
女医先生は顔色一つ変えず、自分の意見を返す。
「・・・・座ぐり糸作家さんは、康平くんの恋人なのかしら?
あなた。彼女の病気に、ちゃんと気がついていたの?」
メガネの奥から、女医先生の厳しい視線が康平へ飛んできた。
事態の深刻さをようやく悟った康平が、美和子の横顔を見つめる。
そのあと。あらためて女医先生の顔と向かい合う。
「彼女はたぶん、その話がしたかったのだと思います。
でも、中身には立ち入らず、あとでまた時間をつくるということで、
さきほど別れてきました」
「なるほど。ということは、彼女は子供を産めなくなるかもしれない
ことを、理解しているようですねぇ。
となると事態は、思っている以上に深刻です。
症状は、予断を許さないかもしれません」
「先生。!」
美和子が思わず、身体を乗り出す。
先生と呼ばれたことで先輩が、口元に苦い笑いを浮かべる。
『いいわよ、先輩のままで』『それから・・・・』
と康平へ視線を戻しながら、女医先生が自分の意見を続けて披露する。
「がんといっても、いろいろです。
子宮頸がんという病気は、発症の原因もその治療法も、
すでにきちんと確立している病気です。
がんという名前がついていますが、死に至るわけではありません。
ただ未婚の女性たちにしてみれば、赤ちゃんを育てるための子宮を守る上で、
クリアしなければいけない、危険な病気のひとつです」
『なるほど。それでようやく事態の把握ができました。
それでは少しばかり、わたしがお節介をしましょう。
女性の病気には少しばかり疎い康平クンに、レクチャーしましょう。
ねぇ・・・康平くん』
女医先生が、ニコリと笑って、もうひとことを付け加える。
『無理なオーダーに、笑顔で応えてくれたお礼に・・・うふふ』
当惑している康平を尻目に、美和子は、ほっと安堵の胸をなでおろしている。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第101話~105話 作家名:落合順平