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からっ風と、繭の郷の子守唄 第101話~105話

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 「急に君まで京都弁を使い始めたのには、なにか理由がありそうです。
 よかったら聞かせてくれませんか。その意味を」

 「あら。君までという表現は、どう聞いても2人称どす。
 心当たりがあるのどすか、康平はんには。
 もうひとりの方も、京都弁などを使ってはるんどうすか?」

 「君はもう知っているはずだ。ちゃんと心当たりがあるだろう」

 「やっぱり。いつも一緒に仕事をしている相棒は、英太郎なのね。
 よく似ていると実は、最初から感じておりました」

 「気がついていたのか。
 本人は君にはバレないようにと、必死で隠していたのに」

 「過ぎてしもたこととはいえ、いっぺんは将来を誓い合った仲どす。
 あなたには不愉快な話でしょうが、そないなことを思い出したら、
 封印したはずの京都弁まで、蘇ってきました」

 「本能のなせる所作かな・・・。
 君は口調の荒い上州弁を無理して話すよりも、京都弁の方が
 はんなりとしていて心地がいい。
 違和感がないのなら、京都弁のままのほうが好感が持てる」

 「寛大どすなぁ。あんたって。
 じゃあ、京都弁のまんまに、あなたへ愛をささやこうかしら。
 もう、前の男は過ぎ去ったことどす。
 すっかりと忘れてしまった昔の話どすなぁ・・・」

 「無理しなくてもいい。
 人には、言えない秘密がひとつやふたつはある。
 ところで、これからこの車は、いったいどこへ行くのですか?。
 俺には、行き先のほうが気にかかる」

 「高台にある、日帰りの温泉施設どす。
 そこから渋川市と前橋市の夜景の、両方が見えるそうどす。
 夜景の見える露天風呂なんて、考えただけでもロマンチックどす」

 「ふぅ~ん。どこで仕入れたの、そんなホットな情報を」

 「徳次郎はんどす。
 完成したばかりの高台の日帰り温泉の泉質が、むちゃええから遊びに行けと
 つよく勧められました。
 こう見えてもあたし、お風呂は超がつくほど大好きどす。
 早速、麓にあるホームセンターまで飛んでいき、二人分の入浴セットを、
 ウキウキした気分で買い込んできました」

 「ということは、どこかに車を止めて、
 俺たちの農作業がおわるのを、待っていたわけだね」

 「いいえ。徳次郎はんのお宅へ戻り、コタツでおぶをいただきました。
 表は風が吹いていてむちゃ寒そうなのに、縁ねぎのガラス越しの
 日差しはむちゃ暖かいし、
 徳はんとお婆ちゃんと3人で、お昼寝などをしてしまいました。
 うふっ。申し訳ありません、怠惰な女で・・・」

 15分ほど山麓を走ると、おすすめの温泉施設へ到着する。
西を向けば、正面に伊香保温泉の山々が見える。
足元には、利根川がゆうゆうと流れている。
伊香保の山麓と、利根川の流れに挟まれて、渋川市の市街地が広がる。
ここには、ナトリウムとカルシウムを大量に含んだ源泉がある。
2つある浴室は週変わりで、男と女が入れ替わる。