あの綿毛のように
二
最後の日でも、おじいさんとおばあさんの態度は変わらなかった。その変わらない態度が、今年限りの特別な関係ではないことの証のような気がしてうれしい。
お別れの時間が来る。二人のお見送りは玄関までだった。
「それじゃ、気を付けて帰れよ」
「都合が合えば、また来てね」
私の手を握るおばあさんの手を、私も強く握り返す。
「えぇ、喜んで遊びに来ます」
「おばあちゃん、おじいちゃん、私だけの時と全然態度違うんじゃない?」
佐々木さんが不満そうにつぶやく。
「そうか? いやー歳だからな。覚えてない」
「ごまかしたねおじいちゃん」
「……空だって、待ってるからね」
「――うん」
「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとうございました」
「お、海は空より行儀がいいな。孫になるか?」
おどけるおじいさんと、それを見て笑うみんな。本当に、ここでの一週間は大切な思い出になる予感がしている。
「あ、これ、途中で食べなさい」
アルミホイルで包まれたおにぎりを、さらにバンダナでくるんだものを手渡された。
「このバンダナ」
そう言いかける私に、おばあさんは「次来るときに返してね」と笑った。
「ありがとうございます」
そして、それぞれがそれぞれのお別れの言葉を掛け合って、私たちはバス停へと向かった。
行きと違って、帰り道はなんだかあっという間に過ぎてしまう。がたがたと揺れるバスも、何時間もかかる、変わり映えのない景色の電車も、何もかもが行きの二倍以上の速さで動いているのではないかと思ってしまう。
電車の中で、おばあさんの作ってくれたおにぎりをほおばる。ちょうどいい塩加減と、中に入っているツナマヨがとてもおいしかった。
そして気が付けば、もう家はすぐそこに迫っていた。
遠足は家に帰るまでが遠足というけれど、この分だと私たちは家に着いても遠足気分が抜けないような気がする。
「佐々木さん」
「何?」
家近くのバス停に降りた私たちは、道をゆっくりと歩いていく。
「よければさ、遠足の続きしない?」
「遠足?」
「そう、つまり、私の家に泊まっていかない? なんだか、まだおばあさんの家の気分が抜けなくて、今佐々木さんいなくなると寂しいかなって」
そういうと、佐々木さんは嬉しそうに「なんだなんだ、吉岡は寂しがり屋だなぁ、よしよし」と私の頭を撫でてくる。
その夜、私と佐々木さんと海の三人は、お互いがいつの間にか眠ってしまうまで、夜を徹してお話をした。