あの綿毛のように
二
朝ごはんを食べると、おじいさんが竹とんぼの直しをしようと提案してきた。明日にはもう帰らなければいけないので、直すとしたら今日だけしか時間が無い。
「やります」
「やる!」
私も海も二つ返事でおじいさんに答える。食休みをはさんで表に出ると、すでにそこには道具や私たちの竹とんぼの用意がされていた。
「まっすぐ飛ばないってことは、軸がずれているか、羽根が変なのかだ」
おじいさんはそういって、自分が作った竹とんぼと私たちのものを並べて見せた。確かに、私のものは軸が少し斜めになっているし、海のものは羽根の削りが左右でだいぶ違う。
「それを微調整していけば、ちゃんとまっすぐ飛ぶようになる」
「わかった」
海はそう言うと、おじいさんから小刀を受け取る。見ていて少し怖いけれど、しっかりと左右のバランスを見て調整している。
私のものは羽根のバランスがそれなりに取れているので、軸の入れ方を変えることにした。一度抜いて、少しやすりで削る。その方がスムーズ動く分、まっすぐに入れやすいと思ったからだ。けれど、削りすぎるとすっぽりと行ってしまうだろうからほどほどにしておく。
私の竹とんぼは、程なくしてまっすぐに飛ぶようになった。対して海の竹とんぼはまだ調整が必要そうだ。
「海くんもこれで調整してみたら」
いつの間にか居たのか、竹とんぼを作り終えた(まっすぐに飛んでいた)佐々木さんが海に荒めの鉄やすりを渡した。
「小刀より時間も手間もかかるけど、まだ確実だと思うよ」
「ありがとう」
全然まっすぐに飛ばなくてやけになりかけていた海は、鉄やすりを受け取るとごりごりと羽根を削り始めた。
それからしばらくして、海のものもまっすぐに高く飛ぶようになった。海はそれを見てはしゃいでいる。
「おじいちゃん、飛んだ!」
「がんばったな海」
おじいさんは海のあたまをくしゃくしゃと撫で回して楽しそうにしている。
「何回失敗しても、やりなおしていればできるって本当なんだね」
「ん? 俺はそんなこと言ったか?」
「言ったよ!」
そうだったかな、と首をかしげるおじいさんを海は「ついこの間のことでしょ」とからかっている。
「佐々木さん」
「ん?」
間延びした声で返事を返してくる。
「海のこと気にかけてくれて、ありがとう」
「……うん、どういたしまして。お姉ちゃん」
からかうような、いたずらな笑顔を浮かべた佐々木さんはそう言うと背を向けて玄関へと向かっていった。