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たららんち
たららんち
novelistID. 53487
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あの綿毛のように

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 庭掃除を三人でしている間に、おじいさんは物置からのこぎりや鉈、錐に台座を持ってきて、竹とんぼを作る準備をしてくれた。
 一通り雑草を抜いて、ひとつにまとめて袋に詰め込む。あとはごみの日に出すだけ。掃除が終わることを縁側に座っていたおじいさんに知らせると、おじいさんはまず私たちに見本を見せてくれた。
 まずは台座に長い竹の片方を乗せて、のこぎりを使い切り分ける。大体長さは十五センチだ。おじいさんの切った断面を見ると、しっかりとまっすぐに切れている。
 「次、海やってみな」
 「わかった」
 おじいさんがリズム良くギコギコとのこぎりで竹を切っていたのとは対称的に、海ののこぎり捌きは見ていて怖かった。途中で引っかかったようにのこぎりの動きが止まるかと思えば、そこから一気に限界までのこぎりを引いていく。なんとか切り終えた竹の断面はがたがただった。
 「まぁ、これをさらに切るからがたがたでも気にすんな」
 のこぎりの歯を見つめる海におじいさんは言った。次は私の番だ。
 「――難しい」
 のこぎりで竹を切った私は思わずそうこぼす。おじいさんの使ってたのこぎりと、私の今使ったのこぎりは本当に同じものなのだろうか。
 「次は、この切ったやつをだな……」
 おじいさんは鉈を使って、今しがた切り分けた竹を縦に割った。ひとつは持ち手で、もうひとつは羽根になるそうだ。鉈で切り分けるのは少し怖かったので、私はおじいさんにやってもらった。海は自分でやるんだと意気込んでいたが、うまく小さく切り分けられなかったので、結局おじいさんにやってもらった。
 羽根になる竹の中央に錐で穴を開ける。そして、左右を小刀で削り、横から見ると三角形になるようにして、裏も同じように削る。これでプロペラは完成だ。このときの削り方で、飛び方のバランスが決まる。
 最後に、軸になる部分を羽根の中央に差し込んで完成だ。
 「飛ばそう、飛ばそう」
 海は完成した竹とんぼを手に、居ても立っても居られないという様子で早速竹とんぼを飛ばし始めた。
 しかし、海の竹とんぼはくるくると少し飛んだかと思うと、すぐにあらぬ方向へといってしまい、そのままこてんと落ちてしまう。
 「あれ?」
 私も同じように飛ばしてみたけれど、海ほどではないがあまり飛ばない。
 「まぁ、最初はそんなもんだ」
 おじいさんは手のひらで軸をまわすと、「それ」というかけ声と一緒に竹とんぼを飛ばした。その竹とんぼは、私たちのものとは違いまっすぐに上を向いて飛んでいった。
 くるくると飛んで、ゆっくりと落ちてきた竹とんぼをキャッチしたおじいさんは、「上々、上々」と満足げだ。
 「おじいちゃん、作るのうまいんだねぇ」
 海はうらやましそうにおじいさんの竹とんぼを見る。
 「俺だって、最初からうまいわけじゃないさ。何回も失敗して、やりなおして、ようやくここまで来たんだ」
 お前たちのも後で少し手直ししたらもっと飛ぶようになるからな、とおじいさんが言うと同時に、窓からまたおばあさんが顔を出した。
 「お昼ごはんですよ」
 携帯を見ると、時間は十二時を過ぎていた。手直しはまた今度にしようと決めた私たちは、玄関へと向かった。
 「そういえば、さっき携帯で時計を見た時、電波繋がってたよ?」
 お昼を食べているときに、佐々木さんにそう伝える。確か、携帯も全然繋がらないと最初に言っていたはずだ。
 「あ、あぁ。あれね。話を盛りました」
 「えぇ? なんで」
 「その方が、田舎っぽくて素敵でしょ」
 満面の笑みを浮かべる佐々木さんを見ると、私は「そうだけどさ」と返すしかできなかった。
 昼食を食べ終えたあとは、押入れにあった古いゲームをすることになった。畳部屋の押入れで佐々木さんがなにやらごそごそと押入れをいじっていたかと思うと、まるで宝物を見つけたかのように取り出したのだ。
 海と佐々木さんはもちろん、私も少し手を出してみる。おじさんが走って飛んでという単純なアクションだけれど、難しい。
 「あ、姉ちゃん落ちる!」
 「吉岡、敵いるって!」
 「ま、待って、待ってって!」
 「敵に言ったってしょうがないでしょうよ」
 「あ!」
 ゲームオーバー、と、私がプレイするとこんな感じだ。私がこれをクリアするとなると、一体何人のおじさんが敵にやられることになるのだろうか。
 けれど、海と佐々木さんの三人で少しずつ先に進んで、ようやくラスボスを倒したときはものすごい達成感だった。質素なエンディング画面だったけれど、しばらくその画面を何も言わずにじっと見ていた。
 ゲームを終えたときにはすでに夕食の時間だった。昨日と同じように居間で食事を取った私たちは、しばらく食休みをとると再びお風呂に入った。
 お風呂から上がると海は別のゲームをしていて、私は海の横に座ってそれを眺める。ここに来てから、ご飯がおいしくていつもより多く食べている気がする。家に戻って体重計に乗るのが少し怖い。
 海のゲームを眺めていたら、いつのまにかうとうとしていたらしい。ゲームを終えた海に肩を揺すられて目を覚ます。
 「姉ちゃん、布団、敷いてるから」
 「あ、うん。ありがとう、海」
 佐々木さんもいつの間にか布団に潜り込んでいた。私が布団に入ると、遅れて海も部屋にやってきて電気を消して、布団に潜り込む。
 「おやすみ」
 「うん、おやすみ。海」
 そうして、眠りに落ちていった。

作品名:あの綿毛のように 作家名:たららんち