あの綿毛のように
田舎の暮らし
私が目を覚ましたのは午前六時半。居間に行くと、新聞を読んでいるおじいさんと、キッチンで朝食の準備をしているおばあさんがいた。起きた時間を聞くと、二人とも六時頃だという。意外と普通だ。田舎の朝は早い、というのは農業とかをしている家庭に限定された話なのだろうか。
朝食の手伝いをしていると、海と佐々木さんも起きてきた。普段慣れている布団ではないからなのか、二人とも早起きだ。
五人で食べる朝食は昨日の夕食より静かだったけれど、それでも明るい食事となった。
片づけを手伝い、テレビを見ながらのんびりしていると、海とおじいさんは竹とんぼの材料を拾いに行った。居間から出て行く様子を見て、私もどこかを散歩したくなる。
佐々木さんがテレビを見ているので消すことはせず、私は立ち上がり、畳部屋に行ってカバンから着替えを取り出す。
パジャマから白色のシャツに着替えて、ジーパンを履く。居間に顔を出して、散歩に行くことを伝えると、玄関で買ったばかりのサンダルを履いて外に出た。
表に出ると同時に、忘れていたように太陽が慌てて私を照りつける。それと同時に耳を貫くような蝉の鳴き声。風はあまり吹いていない、そうかと思うと、突然強い風が吹いてきたりする。
「舗装されてるんだよねぇ」
ブロック塀の横を通り過ぎて歩道にでる。周りには確かに何も無いけれど、普段見慣れない畑や田んぼなどは、見ているだけでも少し楽しい。
歩道をぶらぶらしながら景色を眺める。こうして歩いていて気がづいたけれど、このあたりはあまり木が無い。それでも蝉の鳴き声が聞こえるのは、山からここまでの間にさえぎるものが何も無いからだろうか。
前から人影が二つ近づいてくる。目を凝らしてよくみると、どうやら海とおじいさんらしい。海は何か棒を持っている。
「姉ちゃん、何してるの」
こちらに気づいた海が遠くから声をかけてきた。
「散歩」
「竹とんぼつくろうよ」
持っている棒は竹だったようだ。近づいてきた海は竹を持って私に構えてきた。それを適当にあしらっておじいさんを見る。
「これでどのくらいの竹とんぼが作れるんですか?」
竹の長さは調整してきたのかわからないが、一メートルというくらいだった。
「どのくらい、と言われてもなぁ。これだけあれば何個でも作れると思うが」
「作ってるところ、見せてもらってもいいですか?」
のこぎりとかを使うのだろうかと少し想像してみると、気になり始めてきたので、そう聞いてみる。
「おお、いいぞ。なんなら、海と一緒に作るか」
「それは、作業を見てから考えます。ちょっと怖いので」
こうして三人で家まで戻ると、庭で佐々木さんがホースを使って植物に水遣りをしていた。必要以上に上に向けて水を出しているので佐々木さんも濡れて、さらには私たちにもしぶきが飛んでくる。
「佐々木さん、水こっちまで来てるよ」
「涼しいでしょ」
「服すけちゃう」
「おっと、それはまずい」
ホースを下に降ろして蛇口を締めた佐々木さんは、海が持っている竹を見た。海に近づいてその竹を借りると、佐々木さんは剣道のようにその竹を海に向けて構える。海はそれを見て自分にも何か武器は無いかと探す。ようやく見つけた武器は、落ち葉を払う箒だった。
「庭掃除してくれるのかい? ありがとうねぇ」
おばあさんが窓から海に語りかけた。
「うぇ? あ、はい、どういたしまして」
か細くなっていく声に、私と佐々木さんは笑いをこらえることができなかった。