あの綿毛のように
四
花火があったその日、佐々木さんは私の家に泊まっていった。パジャマは私のものを貸して、同じベッドにもぐりこんで、いつの間にか寝てしまうまでおしゃべりをしていた。
次の日の朝、佐々木さんは私の家で早めの朝食をとった後、急いで自分の家に戻っていった。急なお泊りで、授業の準備をしていなかったからだ。「宿題してない!」と叫んでた佐々木さんの顔が忘れられない。
私はというと、佐々木さんに合わせて早起きをしたため、時間が余って手持ち無沙汰だった。宿題は何日か前に出たものだったので、私はすでに終わらせてある。
まだ静かな外と、朝特有の淡い光。窓を眺めていると、急に外を散歩したくなってきた。
「まだ、時間は大丈夫か」
一人呟いた私は、そこらのコンビニに行くようなラフな格好で玄関を出た。
ただでさえ静かな住宅街は、それに輪をかけて静まり返っている。ところどころの開いている窓からテレビや朝食を準備する音が聞こえるほどだ。
近所にある、比較的緑の豊かな公園へと足を向ける。小学校の授業では、この公園で「歩くスキー」をしたり、長い滑り台のある坂を普通のスキーで滑り降りたりした。幼いころにスキーで足を折った私としてはとても滑り降りられる傾斜ではなく、先生に「無理だ」と何度も言った。今思えば、先生もそんな私に困っていたかもしれない。
骨を折ったといえば、そのときばかりは母も仕事を休んで病室に居てくれていた。普段は買ってくれないような本を買ってくれたり、トランプの相手をしてくれたり、幼いながらに、ずっと足を折っていようかとも考えるほどだった。
ギブスを外すときは、おびえる私の手を握ってくれていた。今はどうかわからないけれど、少なくとも私の場合は、ギブスを外すのも一苦労だった。
電動式でギザギザのついたピザカッターのようなものをギブスに当てる。電源を入れるとそれが回り始めて、硬くなったギブスをガリガリと切っていくのだ。
一歩間違えれば私の足がスパッっと切れてしまう、そんな状況。もう二度と足を折ったりするものか、とそのとき私は考え直したのだった。
公園内にある小さな森を歩くと、木漏れ日が綺麗だった。
私は贅沢なのだろうか。
私は必要以上に母の、両親からの愛情を求めているのだろうか。この、寂しいという気持ちは、私のワガママなのだろうか。
――わからない。
わからないけれど、海だけは、海にだけはこんな気持ちになって欲しくなかった。だから私は海にとっての姉であり、母であろうとした。それもどうやら、海の寂しさを埋められるほどうまくいかなかったのだろうけど。
ポケットに入れていた携帯が震える。こんな朝に誰からだと思っていると、画面には家の電話番号が表示されていた。
「もしもし」
「姉ちゃん、どこにいるのさ」
「あぁ、海か。散歩してたんだ。今公園にいるからもうすぐ戻るよ」
その後、二言三言話をして私は電話を切る。
「戻りますか」
大きな木漏れ日の中一人背伸びして、私は家へと歩みを向けた。