通り過ぎた人々 探偵奇談5
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沓薙山の四柱様。
一。中庭の狐様。
中庭の祠に白狐の霊が出る。狐に会えるといいことが起きる。狐は沓薙山に住む神様のお使いで、今も学校を護っている。
二。白虹童子。
町に白虹(はっこう)が出たとき、沓薙山へ行ってその根元を掘ると宝物が出てくる。それは掘った人が一番欲しいと願うものらしい。山に住む白虹童子に気に入られたものだけが掘り当てることができる。古来より、白い虹が出ると人々は宝を求めて山を登ったという。
三。天狗の集会。
山の天狗たちが集会する夜がある。町に新たな命が生まれると、その子にどのような運命を授けようかと話し合いをするそうだ。昔のひとは赤ちゃんが生まれると、この子にどうか幸福な運命を祈るため、山に登ったらしい。
四。逆さ地蔵。
山のどこかに、逆さ地蔵がある。見つけることができたらさかさまの世界、つまり別次元へ行くことができる。
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「だってさ」
「へえ」
中庭の狐については、郁もよく知っている。夏休み前、工事を巡ってひと騒動あったのだ。瑞が解決に関わっているのだが、あそこには確かに狐がいる。生徒らはそれをわかっていて、中庭と祠を大切にしていた。
「なんかね、町に昔から住むお年寄りに話聞いたり、郷土史を読んだりしたらしいよ」
「ふうん…狐騒動のときも思ったけど…世の中には不思議なことってあるんだねえ」
「あの山、一部は整備されててハイキングコースみたいになってるんだよ。とーるくんに連れてってもらったことあるんだけど、山頂から見る夕日、すっごい綺麗だった。喧嘩してたのに、夕日が綺麗で許しちゃったよ。夜景もなかなかだし」
珍しく美波が乙女チックなことを言う。
「それいいね、素敵だね!」
作品名:通り過ぎた人々 探偵奇談5 作家名:ひなた眞白