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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅲ

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「話を伏せる理由は他にもある。問題の第六セッションに入っていた対テロ連絡準備室のことは、今の時点では、うちの保全課にも、情報保全隊にも知られたくないんだ。なぜだか分かるか?」
「情報局が警察の領域に介入する話を進めていると、公にできないからですか?」
「そうだ」
 美紗は、ごくりと生唾を飲んだ。テーブルの端に置かれたキャンドルが、不安げに揺らめく。その光に照らされた美紗の瞳も、当惑の色に揺れた。日垣は一層声を低め、美紗が知るところとなってしまった極秘部署のことを説明した。

 従来、国家の対外的安全保障を担う自衛隊と国内治安の任に当たる警察の活動範囲は、明確に線引きされてきた。それが、国内外で昨今頻発するテロ事件を受けて、国内事案から国際情勢までをカバーする一元化した対テロ情報ネットワークを作る構想が、政府中枢と関係機関の間で内々に動き出した。
 しかし、現行の法律では、防衛省と自衛隊は、いかなる形であっても、国内治安の問題には介入できない。情報ネットワークを構築するためには、先に、立法機関による法的承認が必要だった。
 法案の作成から法律施行までには、概して、長い時間がかかる。特に、自衛隊に関わる問題では、軍事組織の権限拡大を嫌う勢力の反発が大きい。関連法案の審議は相当難航することが予想された。その一方、世界中で暗躍する国際テロ組織は、日本の政治事情などお構いなしに、一般社会の内部へとその勢力を浸透させていく。法的環境が整うのをただ待っていては、刻々と変わる国際情勢には対応できない。少なくとも、関連法案が施行された時には、直ちに当該の情報ネットワークを稼働できる状態にしておく必要がある。防衛省と警察庁は、やむにやまれず、関連法案の成立を見越した調整活動を極秘裏に始めざるをえなかった。

「対テロ連絡準備室は、そういった調整機関の一部なんだ。しかし、何しろ法的根拠がない状態で動いている。万が一にも表沙汰になれば大問題だ。そういう意味で、非常に秘匿性の高い話になる」
「その……、直轄チームの人たちは、全く何も知らないんですか?」
 美紗は、ひざの上で、両手を固く握りしめた。
「高峰3佐のことも秘密なんですか? みんな、毎日一緒にいるのに……」