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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅲ

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(第四章)ハンターの到来(5)-見知らぬ街



 美紗が直轄チームに戻った時には、すでに五時近くになっていた。やりかけたままの仕事は、すでに先任の松永が引き継いでいた。
「少しは良くなったのか? 具合が悪いなら、ちゃんと言ってくれないと……」
 松永は、「すみません」と小さな声で答える美紗の顔色が青白いままなのを見て取ると、すぐに帰宅するようにと言った。
「さっきのアレは、気にすんな。俺が文句言っといたから」
 悪ふざけのすぎた三人組は、がっくりと頭を下げて美紗に謝罪した。美紗は当惑顔で黙っていた。実のところ、彼らのひそひそ話などほとんど耳に入っていなかった。松永は、小さくなっている三人を一瞥すると、
「こいつらにも相当反省してもらうつもりだが、今俺が言ったのはうちの部長のほう。あんな時に、別に怒鳴ることないだろうに」
 と、第1部長室に聞こえよがしに声を大にした。
「家まで自力で帰れるか? タクシー券が余ってるか、聞いてくるわ」
 直轄班長の比留川が、のっそりと腰を上げる。
「大丈夫です。すみません。一人で帰れます……」
 美紗は慌てて頭を下げると、逃げるように職場を後にした。親切な上官や先輩たちに決して言えない秘密を抱えてしまったことが、彼らに対する裏切り行為であるような気がして、泣きたくなるほど心が痛んだ。

 日垣が指定した駅は、防衛省の最寄り駅から地下鉄で三十分ほどの所にあった。駅の上に広がる街に、美紗は一度も行ったことがなかった。言われた時間までにはまだ一時間以上あったが、時間を潰すのに適当な場所も分からない。かと言って、見知らぬ街をぶらぶら見物する気分には、とてもなれなかった。
 美紗は、ホームの壁に掲示してあった駅構内図を見て、行くべき出口を確認すると、近くにあった椅子に座った。地下鉄の長い車両が、数分おきに入ってきては、慌ただしく発車する。そのたびに、会社帰りの人々がホームに溢れ、すぐにいずこかへと散っていった。当たり前の光景が、なぜか、テレビの映像でも見ているかのように、非現実的に感じられる。これからどうなるのだろう、という不安で、美紗の心はいっぱいだった。どんな責任を問われるのか。やはり、辞めることになるのだろうか。辞めて済む話なのか……。