からっ風と、繭の郷の子守唄 第96話~100話
「美和子です。
まもなく病院へつきます。あなたは、いま何処にいるの?」
「病院の屋上。千尋さんが来てくれたので、これから帰るところだ」
「ちょうど良かった。じゃロビーであいましょう」
それだけ伝えると、一方的にプツリと電話が切れる。
(渡りに船だ。千尋の話は、また今度にしたほうが良さそうな雰囲気だ)
「誰から?」
「美和子だ。まもなく病院へ着く」
「来てくれたんだ。自分だって大変な時期だというのに。
ごめんなさい、康平さん。
大事なお話ですが、まだ告白する勇気が足りません。
自分から言い出しのに、中途半端な形のままでごめんなさい。
もう少し私に時間をください。
じゃあ。私は、貞ちゃんの病室へ戻ります」
「今日はそうしたほうが良さそうだ。
千尋さんの都合の良い時に、また、あらためてうかがいます。
俺は下で美和子と会ってから、そのまま帰ります」
じゃあと言いつつ、千尋が貞園の病室へ戻っていく。
康平はエレベーターを使わず、階段を一段ずつ噛み締めるように降りていく。
昨夜の貞園の過呼吸症騒ぎといい、千尋が何かを告白しようとした事といい、、
なにやら、目まぐるしい展開ばかりがつづいている。
康平は後頭部に、重い痛みのようなものを感じている。
時間をかけてロビーまで降りていくと、すでに美和子がそこにいた。
椅子に腰掛け、ハンカチで軽く額を押さえる。
康平に気づいた美和子が、『こちら』というように、そっと手を振る。
「だいぶ目立ってきたね、ふっくらしている」
「まもなく16週目です。
10週あたりから、お腹周りがふっくりしてきました。
普通は5ヶ月目あたりからふっくりとするそうですが、個人差があります。
細めで筋肉質の女性は、早めにふっくりするそうです」
「大変な時期だろう?、大丈夫かい?」
「つわりがひどいの。
そろそろ終わる頃だと思うけど、水を飲んでも吐いちゃうのよ。
なにかと大変そのものです。
あら・・・逢うなりいきなり、色気のない話ですねぇ、私たち。
貞ちゃんの具合はどうですか。もう落ち着いたかしら?
それから。千尋からは何か、大切な話を聞かされましたか?」
「矢継ぎ早の質問が続くねぇ。
千尋さんの話は、深刻過ぎるような気がする。
貞ちゃんはすっかり落ち着いた。
人前で初めて発作を起こしたということで、パニックになったようだ」
「男のあんたには分からないでしょうねぇ。
女には、いろいろあるの。
貞ちゃんは持病の過呼吸症で苦戦中だし、あたしはつわりで、青息吐息。
千尋だって、女特有の病気で治療中です・・・・
あら。その顔はもしかして、聴いていないのかしら、
千尋の病気のことを?」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第96話~100話 作家名:落合順平