からっ風と、繭の郷の子守唄 第96話~100話
(俺のほうから美和子へ電話するのは、久しぶりだ)
呼び出し音が数回響いた後、『はい。美和子です』と低い声が返ってきた。
(寝起きのような声のようだ?。体調が悪いのかな?、妙に、低い声だ)
予想外の美和子の低い声に、康平の口から次の言葉が出ない。
「失礼ですね、康平ったら。
自分からかけてきたくせに、黙り込むとはいったいどういうつもりなの。
どうしたのですか、こんな朝早い時間から」
「あ、いや。体調が悪いのかと思って、少し躊躇しちまった」
「電話くらいなら出られます。
風邪をひいているのよ。でも、お薬は飲めないの。
その理由はあなたも知っている通りです。
今日は病院へ行く日ですから、ついでに、康平のお店へ顔を出します。
それとも急を要する、別の用事かしら?」
「相変わらず察しがいいね。
実は、貞ちゃんが過呼吸を起こして緊急入院した。
女医先生の処置で落ち着いたけど、少し入院をするようだ。
よかったら通院のついでに、病室へ顔を出してくれないか」
「孕み女が、精神不安定で入院中の女を見舞まえば、それでいいのね。
了解しました。
過呼吸は、貞ちゃんの持病みたいなものです。
でも、緊急の入院となるとただ事じゃないですねぇ。
病院はどこ?。」
「君は知っていたのか。貞ちゃんの過呼吸のことを」
「人前での発作は、初めてだと思います。
でも水面下で、じわじわと慢性化の傾向がありました。
そんなことにも気づかないなんて、あなたはいったい、
貞ちゃんの何処を見つめていたの。
千尋と仲良くなったことで、すっかり有頂天になっているんでしょ。
ダメじゃないの。可愛い妹から目を離したりしたら。
パパの再婚話が決まったばかりです。情緒不安定に陥るのは当たり前です。
あなたが目を離すから、貞ちゃんがこんなことになるのよ。
で大丈夫なのかしら、元気ですか、本人は」
「なぜ君が、千尋のことを知っているんだ?」
「馬っ鹿じゃないの。
わたしとちひろは2年も一緒に、碓氷製糸場で糸を紡いできた仲なのよ。
康平から電話が入る前、千尋から連絡が入りました。
これから貞ちゃんの病院へ向かうけど、病院で会いましょうってね。
あんた。のんびりしていると女3人に、包囲されちゃうわよ」
「包囲される?。どう言う意味だ、いったい?」
「女たちに情報を共有されたら一体どうなるのかしら。
少し考えてみたらどうなの。
貞ちゃんや私にはもちろん、千尋にも手を出しづらくなるわ。
わかっているでしょうね、康平くん。あら、どうしたのかしら。
・・・・もし、もし・・・・
返事が帰ってきませんねぇ。どうしたんでしょう、いったい、うふふ」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第96話~100話 作家名:落合順平