ボンゴ
「八代署の刑事たちは駐車場の一角で科学捜査をするんだなあ。けれども俺が二度目に駐
車場に見学に行った時は、アカプルコ色の塗料のことも、口橋の検死のことも、何もかも変わっていていたんだなあ。何の恐ろしいことも、無かったことになっていた」
チョコレートを食べて、
「契約者はタカムロ社長。金額は690万円。屋根やらの修理にしては随分高いな」
片目を潤ませた。
「何の契約をしたんだ?」
背後の路地のカーブミラーの光は強度を増した。俺の背中を煌煌と照らしていた。探していた匂いが忍び寄る。荒れた庭に長い長い影を落とす。何か近寄る。新しいものが。新しく俺を照らし、俺を赦し、俺を破壊する。
それは、俺を愛する。
「タカムロという糞社長の近くでは失踪者が幾人も。誰かがいなくなるたび、義烏(イーウー)行きのコンテナが小さな小箱でいっぱいになる。小箱の中を決して覗いてはならない。それに、タカムロという糞社長が、俺を呼んで気にいらない奴の話をしたときには、いつもツルハシを持った大柄な男が、その周辺で工事を始める」
男は内ポケットから象牙色の小さなピストルを取り出した。コルトのルート・リボルバーだった。ヘッドライトと影が回転し、路傍の雑草が右に左に揺れた。仔犬と変わらない気配がしたと思ったら、目の端で麻雪の娘のスカートが翻っていた。
「綺麗なお屋根だね!」
その子はそう言って笑った。
「こんばんは、犬迫のおじちゃん」
ハンチング帽は目玉をギョロリ動かす。