ボンゴ
俺は頭の天辺から爪先まで千粒の汗を垂らした。汗が星のように落ちる。青い屋根の上には、黒色の空。黒色の流星群。空の闇に見える場所は、すべて流星で出来ている。ただ光を放っていないだけの。
男は紙を手に戻ってきた。俺が掘った街灯の横の穴に目をやった。
「このランプは新しいやつだろう?」
男は厚い靴底で泥を踏んだ。
「つまり、ここの工事契約書は、タカムロ社長がお前と交わしたものなんだなあ」
男はその穴の周りを歩き、
「この穴はなんに使うんだ?」
と訊いた。
おれは後ずさりした。背後でひしゃげたカーブミラーが光ったのがわかった。泥と砂利の細い入り組んだ道。人の気配はまるで無し。横っちょは全部畑か荒野。
「麻雪の家を修理しているってえのに、この工事契約書は、麻雪と交わしたものじゃあないんだなあ。それにあのボンゴ」
男は屋根を見上げた。やけにぬらぬらと卑しい青い屋根を見上げ、その上の高潔な流星群の匂いを嗅いだ。
「クソ刑事が酔っ払ってボヤいていた。口橋って男が死んでいたれいのボンゴの中で、マルボロが見つかったそうだ。そのタバコには、塗料がついていた。調べてみると、アカプルコって名前の塗料で」
俺はツルハシを握った。手の中は水浸しだった。相手は小柄で身長は俺より十センチ以上は低い。全体に拳骨のようだった。グリップを返しツルハシの尖った所を先に向けるようにした。しかし相手は、濁った水のように光っていて、一歩もさがらなかった。そしてラテの匂いのするチョコレートの延べ棒をポケットから取り出した。