ボンゴ
3章
ブリキのプロペラ機を模したポストを開けた。空っぽでただ壊れかけているだけだった。数日、水とマルボロしかのんでいない。麻雪のくちゃっとしたあの白い肌を思い出しては、胸を掻き毟る。
裏の木戸から家に入り、手懸かりを探す。締まった木で出来た端正なチェストの中に、小さいメモ紙が入っていた。
”義烏(イーウー)のコンテナの到着は水曜”
裏をひっくり返す。
”犬迫さん、埠頭、十九時”
そのあと、
”穴を掘る男、内緒に”
と書かれている。
麻雪の文字は曲がりくねっていた。鋼材を熱で無理やり加工した時の、癖のある輝きに似ていた。形のいい、品のあるくちびるに、下品な文字。弾けそうな果実に似た体、四十半ばという年齢。射抜く程の鮮やかな美貌、脅えて目を伏せる所作、自由の旗のように翻るコートは血に塗れているアクアスキュータム。
麻雪とその娘を見かけなくなってから、もう十日が経った。それでも俺は毎日無人の家に行き、交わした工事契約書の通りに家を修理し続けた。今日はランプだ。ツルハシを握り、古い街灯を引っこ抜いた穴に、手ごねのモルタルをぶち込んで、新しいランプを建てる。
夜九時、脚立に腰掛け、麻雪の庭でグロー管を変えた。羽虫が白っぽい体をうねらせて俺の周囲に群がっていた。いつか帰ってくるだろう。あの形のいい唇。こうして夜も工事をしていれば、日焼けをしたあの陽気な娘と一緒に帰ってくるはずだ。