ボンゴ
「いや、そういう感じてはない。手を出したくても出せないとか言ってたな。女が自分に気があるのはわかっている。でも触らせてくれないとか。最後の方はもうおかしくなっていた」
「その女、なんて名前?」
「麻雪っていう女だ。いつも白いコートを着ている。上品なんだけど、なんかこう、動物っぽいんだよ。なあ今日はひどく暑くないか? いま何月だっけ」
「今は」
小さな竜巻が作業ヤードの中心に渦を巻いた。二tトラックから作業員が降り、屋根の撓んだ小屋の中へ歩いて行った。片手に炭酸ソーダの入った瓶を持っていた。痛いほど熱い光線が、無数の泡にぶつかり、地に飛沫を散りばめた。作業員が踏みしめる土は燃え、砂の明るみがハンマードリルと銀色の車体を焦がした。
「あいつ、さいごには頭が狂っていた。死ぬしか無いというところまで」
「ああ」
「用心しないと、俺たち男はああいう女には」
地面が赤みを帯び出した。その下の巨大な球体が別のものにすり替わってしまっていた。熱望するものと真逆のものが、口橋に与えられたのだった。死しか彼の穢れた呼吸を清めることができなかった。地面と思っているものが、炎の塊になった。俺は足踏みをした。太陽の上に立っているようだ。
「狂うんだ」
「二月だよ」
「そうだよな」
「女に狂ったら、まず誰も救わない」
「コンテナの横のB棟にお前の街灯がある。義烏(イーウー)市からのコンテナだ。すぐわかるよ」
アスファルトの材料が積まれた黒の保管小屋で、蝶がひらめいていた。平島が後ろで大声をあげた。
「義烏のコンテナの中を見るなよ! タカムロの社長より糞な奴が、絡んでいるんだから」