ボンゴ
資材置き場の一番奥に、目を貫く色があった。ああ、と息を吐いた。見覚えのある色。 五メートルの長さの繋留注が何本か置かれていて、半分がアカプルコ色、もう半分が白だった。麻雪が仕事で卸していた繋留柱だ。数のことを考えるとその数が集まるものだが、色のことを考えていたらどうなのだろう。俺の頭の中はアカプルコでいっぱいだった。麻雪が気に入らなかったあの屋根の色だ。平島が伝票を手に近づいた。
「その繋留柱は、海に直接さすやつだ。埠頭に置くものじゃあなくって」
「こんなもの、売っているやつがいるんだな」
「愛しそうに売るよ。鋼に色を塗っただけの代物なんだけど」
「どうやって運ぶんだ?」
「31フィートのコンテナで」
泥だらけの防寒コート野郎は、煙草をくゆらせた。俺は伝票にサインをして、平島からマルボロを受け取った。
「海も陸もそのコンテナで行けるよ。どこにだって行ける」
「相当なデカさだろ?」
「デカいのはどうってことない。貨物列車にだって乗るから」
ひしゃげたコンテナの積み重なりを上から下まで眺めていると、平島は、結婚したんだってな、と言った。俺は首を振る。
「今日、離婚届を出しに行くよ」
「まだ一週間もたっていないだろう?」
「相手に好きな男が出来たらしい」
俺は嘘を言った。結婚しても、微塵も苦しさは減らなかったのだ。相手の女は半狂乱になっていた。俺は傷つけると知っていて、傷つけた。女は怒り狂ってサインをした。
平島はうつむいて笑った。
繋留柱の先端にタグがついていた。タカムロ商事と書かれている。