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からっ風と、繭の郷の子守唄 第86話~90話

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 「24時間一緒ですからねぇ、農家は。
 このあたりではハウスで、トマトやキュウリを育てています。
 最盛期になると、どこの農家もテンテコ舞いです。
 暖かくなると、野菜は驚くほどの速度で成長します。
 朝は小さかったものが、夕方になるともう収穫サイズに育ってしまいます。
 農家は、一日中収穫に追われます。
 日が暮れてから、ようやく選別と出荷の作業に入ります。
 野菜には細かいランクが設けられています。
 品質とサイズごとに選別して、箱に詰め、出荷の準備をします」

 「箱詰めまで、農家が担当するのですか?
 それでは中間業者は何もせず、箱詰めされた野菜を動かすだけになります。
 農家の負担ばかりが増えることになります。
 不平も言わず、よく頑張ってますねぇ。農家の皆さんは。
 まさに尊敬に値します」

 「いつの間にか、そんなシステムが出来上がりました。
 多少の不公平感はいなめません。
 でも昔から農家は、支配者に振り回されてきたんです。
 「百姓とごまの油は、しぼればしぼる程出る」と言われています。
 封建時代の領主は、年貢を強要してきた。
 年貢(税率)は五公五民と、極めて高率です。
 時には、六割を超える時代もありました。
 心血を注いで作り上げた収穫物が、秋になると五割が徴収されます。
 農民たちは蓄積はおろか、食べる米さえ不足します。
 集められた年貢は、領主自身の経費と武士の給料にすべて使われます。
 「百姓は生かすべからず。殺すべからず」ということばが、
 この時代に存在しています。
 藩の財政が急迫すると、普通の年貢の外に、御用金や御繰合金、
 寸志金(元服するときの費用として差し上げる金=二十両)、
 分限金等などの名目で、しぼれるだけ搾り上げたと言われています。
 そのほか、郷役というしめつけもありました」

   ※郷役・生活環境維持のための作業や、行事など、
    集落総出でおこなう互助のこと。

 「なんだかんだ言いながら康平さんは、農業に詳しいですね。
 スコップ片手の水路復旧の仕事も、楽しそうです。
 畑仕事も様になっています。
 どうですか。居酒屋を辞めて私と二人で、農業に専念しませんか」

 「5反くらいの農業では、まったく食えません。
 一人息子の跡取りなのですが、母ももう農家を諦めています。
 英太郎さんと同じように、昼間は畑で汗をかき、夜は居酒屋で稼ぎます。
 桑の畑が完成するのは、これから3年後のことです。
 前途はまだまだ、すこぶる多難です」

 「当面のあいだは、2足のわらじという現実ですか。
 たしかにこの時代、百姓で食うのは大変なようです。
 泣き言を言っていても仕事は、はかどりません。
 じゃあ、そろそろ行きますか。
 俺とお前で赤いトラクタ~。なんて、ね!。あっはっは」