小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

からっ風と、繭の郷の子守唄 第86話~90話

INDEX|5ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 「え・・・母は赤城の糸を紡いでいたのですか。初めて聞きました」

 「お前が生まれる前の話じゃ。
 千佳はとなり村の生まれだが、そこにも糸を紡ぐ風習があった。
 大昔のように、専業で引いていたわけではない。
 当時女学生だった千佳たちに、わしらが指導した。
 お前の母が一番器用に、上手に引いた。
 世が世なら立派な後継者になったであろうが、いかんせんこの不景気だ。
 おっとっと。朝から余計なおしゃべりをしたのう。
 さて、着いたぞ。ここが昔の取水口じゃ」

 老人が指差したのは、山麓を下っていく細い沢の流れ。
中腹から自然に湧き出た地下水が、ひとつの流れとなり沢をつくる。
南東方向に向かって山肌を下っていく。
やがて、赤城の中腹から流れ出る唯一の一級河川、桂川へ流れこむ。

 「ここが水の取り入れ口じゃ。
 一ノ瀬の大木のすぐそばを流れ、500mほど下にある枯れ沼まで至る。
 かつてはここに、一年中流れていた水路があった。
 まずはこの水路の復旧させる。
 次は畑に肥料を入れて、栄養豊かな土地に変える。
 桑の苗を用意するのは、いちばん最後じゃ。
 本格的に葉が茂り、蚕を育てるまで、早くても3年はかかる。
 まずは水の準備と、土作りから始める。
 水と土を整備する。これはいつの世でも、農業の基本じゃ」


 「徳爺さん。沢の水面はだいぶ下のほうにあります。
 これでは昔の取水口は、まったく役に立ちません。
 なにかうまい解決策が、ありますか」

 「簡単なことだ。ここでだめなら、もっと上流から取ればいい。
 50~60mも登ったところへ、新しい取水口を作れば、すべてが解決する。
 そんなことも思いつかないとは、お前も頭が固すぎるのう」

 「ここから上流へ50m。下流500mにおよぶ水路の掘り起こしか・・・・
 いきなり土方仕事の始まりだなぁ。
 農業というのはやっぱり、1に体力、2に体力の世界だ。
 俺は田舎で育ったからいいとしても、問題は英太郎さんのほうだ。
 いきなりの体力勝負では、これから先が思いやられる」

 「覚悟は承知の上です。
 ですが、この現実は、やはり凄いものがあります。
 二人きりのスコップとツルハシで、はたして勝負になるのでしょうか・・・・
 たしかに不安を感じます。
 ある程度の想定はしていましたが、やはり農業には、
 予測をはるかにこえる厳しさがあります」