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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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毎週月曜日のシカさん。~その一~

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『お母さん、バックバック!!シカ止めてあげるよ。シカ止める事信じてくれないから、戻って。シカ止めるの見せてあげるからUターン!!』
と急いで言った。
お母さんは鏡越しに、後ろに座っている私を面白くなさそうな疑いの目で見ていた。
しばらく進んだ先に空き地があったからそこでUターンした。
お母さんの友達も乗っていたけど、意味が分からず腑に落ちない顔をしていた。
お母さんも信じていなかったから、
『もし止まらなかったらどうしてくれるの?!本当に止まるのよねぇ~。本当に、本当に止まるのよねぇ~っ!!』
としつこく言って来た。
“止まる。”としか言いようがないから、それ以上の事は言えなかった。
シカの所に向かいながら、
『シカに、“待って。”って言う時に、人間の存在があったらシカは逃げるから、人間の気配は消してよ!!出来るだけ消して!!』
と私は二人に言った。
でも言われた二人は、
『気配を消す…?!』
と意味が分からず困っていた。
そしてシカのいる所の空き地にそーっと車で入って、その中でUターンしてシカから二十メートルも離れていない所に車を止めた。
すぐにシカが逃げ出したからお母さんが、
『ほら~、無理だって~。』
と声を出したから、
『黙って!!』
と早口で言った私は、開けていた窓から顔を出して、
『待ってっ!!待って~!!』
と言った。
シカは全く止まらずに逃げ続けたから、もう一度、
『待って~っ!!待って~っ!!』
と少し声を大きくして言った。
三頭のシカがピタッと止まった。
後の残りは逃げてしまったり、遠くの途中に止まっていたシカもいた。
はっきりと分かるのはその三頭だけだった。
そしてその三頭の内、一頭か二頭が振り向き、こちらを見つめたまま動かなかった。
私は持っていたカメラの電源を入れようともがいていた。
お母さんとその友達からは言葉が出て来なかった。
カメラの電源に悪戦苦闘している中、お母さんが何回か喋ろうとしたけど、シカにバレてはいけないと、
『静かにっ!!黙ってっ!!人間は黙るっ!!』
と早口で言った。
お母さんから言葉を飲み込む音がした。
どうしてか上手く行かずカメラの電源が入らない。
『ちょっと待って~。カメラの電源が…入らない…。ちょっと待って~。』
とそんな事をシカに言いながら繰り返していた。
シカは待っててくれたのに、結局電源を入れられなくて、シカたちは逃げて行った。
『あーあっ。逃げてしまった~。…でも、お母さん、嘘じゃなかったの分かった?!』
と私はようやく人としてお母さんに話し掛けた。
お母さんは固まっていた。
そして鏡越しに私を見て小刻みに、
『うん、うん、うん。』
と肯いていた。
そして落ち着いたお母さんは、
『止まった~…。止まったねぇ~…。』
と目を見開いて友達に言っていた。
でも友達は何が起こったのか、上手いことお母さんの言葉に反応しなかった。
ただただ困っていただけだった。
そこについては申し訳ない…と私は思うしかなかった。
受け入れられない人には、ただただ申し訳ないしかないのだ。
そしてお母さんは、徐々に現実へと戻って来て、感動し始めた。
『うわぁ~、シカが止まったねぇ~っ!!シカが、“待って。”って言って止まった~。凄いねぇ~っ!!』
と感動が止まらなくなった。
私は肯き、それよりも何故カメラの電源が付かなかったか…を調べた。
・・・・・・カメラが・・・・・・逆さま・・・だった・・・。
“あ~あっ。”
という結果。
その帰り道、お母さんは感動の中、シカが止まった瞬間の話を何度も繰り返し話し続けた。
その車中、お母さんの友達は腑に落ちないようで否定的だった。
そんな態度にお母さんは、
『じゃあ、シカはいなかったの?!シカは止まらなかったの?!あいちゃん(仮名;私)が待ってって言って止まったのは何?!』
と責めるように何度も言っていた。
友達は言い難そうに、
『シカはいたよ。そりゃ~止まったよ…。』
とは言うけど、面白くなさそうに言うから、今度はお母さんが面白くない態度になって行く。
そんなやり取りをしながら家路に着いた。

この事があってから、お母さんは動物に対しての見方が変わった。
私が今まで言って来た事を思い出し、否定して来た事をたくさん思い出しては謝っていた。
私はその態度を“よろしい~。”と肯いた。

お母さんは毎週月曜日、仕事に行く時にシカがよく出る所を通るから、と言う事で私も一緒に付いて行った。
『そこでまたやってみて欲しい。また見たい。』
と言うので、付いて行った。
そこは街から外れて、田んぼばかりがある道を通り抜けて、山道へとなって行く。
その先にピアノの先生をしているお母さんの生徒の家がある。
山道を通っている時に大体同じ場所にシカがいると言う。
そこはあんまり手入れもされてなくて、携帯の電波も通っていなくて、街灯もない真っ暗な通りだった。
だからほとんど車の通りはない。
山の上に住んでる人たちは、この通りが怖くて反対の通りばかりを使うと言う。
そして初めて行ったこの日もちゃんとシカがいた。
お母さんは何処にシカが出るかをちゃんと把握している。
そしてお母さん側にシカが数頭いた。
ゆっくり車を止めて、お母さんがそっと窓を開ける。
シカはすぐに逃げ出し始めた。
お母さんを踏み付けている私は間髪入れずに、
『待ってっ!!』
と大きな声で言った。
二頭ほどのシカがピタッと止まった。
お母さんは息を飲んで、止まったシカを見ている。
『こんばんは~。』
と私は優しく声を掛ける。
シカが逃げようとした。
すかさず、
『待ってっ!!』
と言った。
一頭は少し離れて止まって、もう一頭はピタッと止まった。
『ごはん食べてたんでしょ?!そのまま食べ続けていいよ~。』
と私が伝えたら、シカは、
“いいのかなぁ~。”
という顔をして、顔を下げながらこちらを伺っていた。
そして草を食べ始めた。
それでお母さんはというとシカを見たいけど、私の手の平に踏み付けられているので、太ももとかの痛みを堪(こら)えながら、痛みから出る声を押し殺してシカに感動していた。
私はシカにも気を向けないといけないし、お母さんが痛がるので手の位置を変えなきゃいけないし…とそっちにも気を向けて手の位置を太ももの付け根に変えたら、お母さんが声を出さずに痛みに藻掻き始めて、声を出さずにジェスチャーで、
“動かなくていい!!そのまま、そのままっ!!”
と伝えて来た。
私は、
“えっ?!”
と分からなかったけど、すぐに理解して、元あった太ももの位置に手を戻したら、お母さんが高速で首を横に振って、ジェスチャーで、
“違う、違う、違うっ!!動かなくていいから、シカの事をしてっ!!”
と言って来た。
“あ~、そういうことか。分かった、分かった。”
と肯いた私は、またも太ももから手を離し、サッと太ももの付け根に手を置き直したら、お母さんが声を出さずに、
“ギャーーーーーッ!!”
という顔をした。
私は困ってしまい、その困り顔をお母さんに向けたら、お母さんは痛みを我慢した顔で高速で肯き、
“もうこっちはいいから、シカの事だけしてっ!!”
とジェスチャーして来た。