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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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海の約束

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「明日は泳げるかなあ」
 仲間はため息をつく。わたしは窓から荒れた海をながめていた。
「だいじょうぶよ。明日はきっと晴れるわ」 確信があったわけではないけれど、そんな気がしてわたしは言った。さえちゃんの言葉を思い出したから。
「あやの言ったとおりね」
「台風一過の、秋じゃない、夏晴れ」
 朝、砂浜を散歩した。すっかり天気は回復して、もう太陽はぎらぎらしている。
 わたしは海岸の南側へまっすぐ進んだ。
 きっと、そこにあるだろう、あさがお貝を見つけに。
 思った通り。そこには無数のあさがお貝が、打ち上げられていた。
「わあ、きれい。なんていうの?」
 仲間たちははしゃいでいる。
「あさがお貝っていうの。ふだんは海の上に浮かんでいるのよ。海流の関係で、嵐のあととか、南の方で地震があったりすると、この辺に打ち上げられるの」
 いつか、さえちゃんといっしょに図鑑で調べたことが、すらすらと口をついて出てきた。
 みんなは夢中であさがお貝を拾っている。岩に砕かれ、完全な形のものはいくつもない。 けれど、わたしは見つけた。大きくて、少しも欠けたところのない、あさがお貝を。
『うみのやくそくかしらね。いいおてんきにしますって』
 風に乗って聞こえた。鈴がなるような、かわいらしいさえちゃんの声。
 きら。
 あさがお貝の口が光った。見ると、中から指輪が出てきた。金色の。これは、さえちゃんのお母さんの指輪。
『うちのおとうさんとおかあさん。れんあいけっこんだったの。おとうさんたら、まっかになって、ゆびわをあげたんだって。すてきよね。わたしも、おとなになったら、れんあいけっこんするの』
 だから、さえちゃんは必死になって指輪をさがした。お母さんのために。
「ごめん。わたし、ちょっと行って来る」
 あっけにとられる仲間を後目に、わたしはさえちゃんの家に向かった。
 ひものを干すにおいが満ちた、細い路地を入って、石段を登った突き当たり。お母さんがたった一人で住んでいるはずの。
「おばさん!」
 わたしは夢中で玄関を開けた。
「あ、あ……や……ちゃん?」
 驚くおばさんの顔。さえちゃんを待ち続けて、ずいぶん年をとった。
「おばさん、これ」
 わたしはいきなり指輪を差し出した。けれど、おばさんはすぐにそれとわかった。
「今、見つけたの。ほら、このあさがお貝の中から」
作品名:海の約束 作家名:せき あゆみ