海の約束
おばさんの目から、涙があふれた。
「今朝がた、さえこが笑っている夢を見たの。何年ぶりかしら」
おばさんはぽつりぽつりと話し出した。
「それもね、浴衣をきていたの。あのとき、あやちゃんといっしょに着るはずだった。覚えてる? 朝顔の模様の」
わたしは、大きくうなずいた。そして、今度はゆっくりと話した。この町に来たいきさつも、浴衣を海に投げたことも。海から出てきた、あの銀色の影のことも。
「ありがとう」
おばさんは笑った。昔と同じ笑顔だ。
その瞬間、わたしの心のよどみも、きれいな清水に変わった。
「今度は、ホテルになんか泊まらずに、うちにいらっしゃい」
別れ際、わたしの背に向かって、明るい声でおばさんが言った。
振り向いて手を振ると。
きらり。
その向こうの波頭の陰に、銀色の魚がはねあがった。