睡蓮の書 二、大地の章
黒い樹脂がかすれるように覆う木製のテーブルの上に、丸い赤の水玉が、ぽかりと浮かぶ。
――そのときだった。
どこからか……おそらくそのテーブル付近から、突然、闇色をした正体不明のものが次々と、競り上がってきた。
液体とも気体ともつかないそれは、うねるように湧き、部屋の中という空間概念を一切無視して目の前に高くそびえ立つ。
それは闇のもつ独特の威圧感でシエンを見下ろし、そうして瞬く間に――その頂上を崩すように次々となだれ落ち、まるで闇の触手で包み込むようにして、シエンを呑み込んでゆく――。
声一つ上げる暇も、なかった。
抵抗を考えることすら――できなかった……。
作品名:睡蓮の書 二、大地の章 作家名:文目ゆうき