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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 二、大地の章

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 彼にとっては、それが事実か、そうでないか以上に、現在に生きる自分自身に影響があるかどうかの方が重要だった。初代太陽神が自身のために、僅かな事実を隠したからといって、今の太陽神には関係のないことだ。そして、それに仕える自分自身にも。もちろん、それが事実であるとはっきりすれば、公文書に記すなり、それなりの措置を取らなくてはならないだろうが。
(でも、あいつは違うんだろうな)
 過去の戦について語るときも、シエンはいつも、決して他人事のようにはとらえない。まるで自分が関わったことのように、なぜだろうと考える。なんでも自分と結び付けて、自分の責任のように思い込む。
(だから、余計なもの背負って苦しむんだろ……)
 見ていられなかった。小さなものを救うために傷ついて、それがいったい何になるのか。抱えきれなければ吐き出せばいいのに、それをしないから共有することもできない。それがときに、もどかしく感じる。言葉に出さないから、その分きっと心のうちにさまざまな思いを抱えているのだろう。彼はそうして迷い、また傷つくのだ。
(あんなことを繰り返していたら――)
 いやな感覚がじわりと染み広がった。昨夜の光景がまたよみがえる。
 ホリカの心配はもっともだ。けれど、シエンは聞き入れたりはしないだろう。頑固な奴だから……。
「……」
 重い思考を追い払うように、すうと呼吸する。きらきらと陽を照り返す水面を見つめ、そうしてケオルは、自分のやるべきことに頭を切り替えた。
(さっさと確認して、調べ物の続きに時間を充てよう)
 書物庫の地下の壁に記される「予言書」は、二十年前に第50、51節が続けて記されて以来、何の変化もない。初めてのときはさすがに緊張したが、これだけ長く記されていないと、ひょっとすると在位中は何も加わらないのではないかと思ってしまう。そもそも、その第51節など、まだ完全な解釈を与えられてもいなかった。
 父が解けなかった予言書の解釈を、自分の名で正しく示したい。そのためには、もう少し時間が必要だった。新しいものが記されなければ、それは好都合。そう考える一方、新しいものを一度、自力で解いてみたいという思いもあった。
(どうかな、今年は。なにか、記されてるかな……)