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海の向こうから

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九 おお、国家よ



 貝浜から寄房までは車で20分ほどのところにある。さっきの駅から電車に乗ったら景色がきれいで楽しいだろうなと先生に言ったら、
「確かにそうだけど、一時間に一本だよ」
と言われて線路の方を指差して、その先を見ると2両しかないオレンジの電車が駅から出るのが見えた。
「この景色も風情があっていいなあ」
と私の計画が無理っぽいのが分かると走り出す電車と並走しながら強がりを言うと車内のみんなは笑っていた。

   * * * * *

 調査は振り出しに戻った、というより最初に来るべきだったかもしれないけど。

 港町である寄房(よりふさ)は砂浜があって夏は海水浴客で賑わい、その近くには大きな港がある。貝浜で見た碑から推測すれば周辺に寄港するところがないから、ナジエージタ号はこの港に向かっていたと思われる。
 しかし船はここへ到着する直前に沈んだ。その経緯はもはや分からない。残ったのはその事実と一人の生存者だけである。そして、その生存者も国に戻ってしまっているし、そんな事実があったのかさえ分からない。当時はソビエト、今はロシア。場所は同じでも国が違うのだから。

 情報が得られる確証はない。でも、ここで何かを聞かずにはいられなかった――。

 おじいちゃんの運転で寄房港の近くに来ると、町は少し賑やかになってきた。私は窓の外を見ていると
「町の道路案内がキリル文字になってマス」
嬉しそうにイリーナさんが外の標識を指さした。確かに漢字の表示のしたにあるルビが

  Ёрифуса (寄房)

とある。この辺はロシア船との貿易が盛んなのでこういったルビが見られる。つい最近おじいちゃんと一緒に釣りに来たのに気付かなかった。
「運転せんかったら案内表示も気にせんじゃろ」
とおじいちゃんは笑って言うけど、
「そういうおじいちゃんこそ気付かなかったの?」
「そうじゃのう……」
ハンドルを握ったまま考えるおじいちゃんの姿と出来た間に笑いが生まれた。
「でも、気にしなかったらローマ字と違いが分からないでしょ?」
「そうデスね。おじいさんは漢字が読めるから十分です」
 それもそうだ。字が読めるならルビはあまり注意しない。私も先生も最初レコードの文字がローマ字と間違えたように、必要がなければ気付かなくても問題にならなかったのだから。

作品名:海の向こうから 作家名:八馬八朔