からっ風と、繭の郷の子守唄 第81話~85話
中央部分には平屋の店舗が、回廊のように連結している。
東と西に、2階建ての大きなテナントが建っている。
ブランド店は案内図を参考に、迷路の中をそれぞれが探し回る。
ブランド店舗を点在させることも、ショッピングモールの戦略のひとつ。
無秩序に店舗を配置することで、偶然の発見を演出してみせる。
あちこちを、延々と歩かせることに最大の意味が有る。
そこには、『何度来ても飽きさせない』というコンセプトが、潜んでいる。
貞園の探す「ROPE'(ロペ)」は、平屋店舗の南端に有る。
そこまでまでいくと、目の前に、突然みどりの大空間が出現する。
つい最近まで、ゴルフ場として使われてい空間だ。
大きな池が横たわっている。
向こう側には、いまだにゴルフ場として使われている空間が広がっている。
(ようやく見つけました。
ずいぶんあるいたけど、ここには、最高のロケーションがあります)
貞園が、両手を後ろに組んだまま新作のバッグを物色していく。
1968年に誕生した「ROPE'(ロペ)」は、南フランスのコートダジュールにある
リゾート地、ST.TROPEZ(サントロペ)に由来している。
直営店ということもあり、最新のバッグがたくさん並んでいる。
貞園が探しているのは、サテンクロスのクラッチバッグだ。
だがその前には、さきほどから先客が立ち止まっている。
顔は見えないが、背中姿に見覚えが有る。
(あら・・・あの子です。良く会うわねぇ、今日はこの子に)
「ロペは、お好きかしら。あなたも」
突然声をかけられた千尋が、驚い孝雄で振り返る。
愛の教会で視線を交わしあったふたりが、思いがけない場所で偶然の再会だ。
(あ・・・あの時の、天使のような横顔のひと・・・・)
間近に現れた美しい人に、思わず千尋が一歩後ろへ下がっていく。
「警戒しないで頂戴。逃げないでよ。
ロペは、1968年。株式会社ジュンのレディスブランドとしてスタートしたの。
台湾に住んでいた時から、大好きなブランドなのよ。
新作のサテンクロスのクラッチバッグは、誰が見ても素敵よね。
一目惚れしちゃいました。あたしも。
どうかしら、あなたも私と同じ意見かしら。もしかして」
悪戯っぽい貞園の目が千尋の瞳を、真正面から覗き込む。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第81話~85話 作家名:落合順平