からっ風と、繭の郷の子守唄 第81話~85話
『軽井沢プリンセスショッピングプラザ』は、長野新幹線の
軽井沢駅開設とともに誕生した。
駅前空間にひろがる、雑多な店舗によるショッピングモールだ。
ファッション、スポーツ、アウトドア、生活雑貨といったショップから、
世界各地の名物料理店など、220余りの店舗が立ち並んでいる。
「売れ残った女3人が、時間を潰すには、うってつけです。
私たちも、値引きの札を付けて売ってもらいましょうか。
4割から5割も引けば、誰かが飛びついてくるかもしれません」
「よく言うわよ。貞園たら。
心配がなくなったから、あなたは大丈夫でしょう。
社長と奥さんとの離婚交渉も最終段階だし、夢にまで見た奥さんの座まで
あとほんの、わずかじゃないの。
妊娠4ヶ月目の妊婦がお嫁に行き、10年間も愛人暮らしをした貞園も
主婦の座まではあと少し。
残されたのは、不倫女と、バツイチのあたしだけ。
女の30歳代は、夕暮れが早くなる。
油断しているとあっというまに、黄昏が来てしまうわ。
そうならないように、早めに適当な男で我慢するか、一生独身で過ごすか、
どちらにしても、2つにひとつしかないわねぇ」
「今の時代、男なんかあてにならないもの。
私はせっせと貯蓄に走る。
『生涯未婚率』は男性で20.1%。。
女性でも、10.6%になっている時代です。
女性の10人に1人は、子供も産まず、一生を独身ですごす時代なのよ。
30歳の女性が独身のまま85歳まで生きると仮定した場合、
1億6450万円が必要になるそうです。
そのためには、一年あたり、100万前後の貯金が必要になる。
手取りで340万円くらいの年収が必要です。
難しい数字ですが、まるっきり実現不可能な数字でもないわねぇ」
「男よりも、持つべきものは現金か。
なるほどね一理はあります。
でもさ。そういうもっともらしい話を、バツイチのあんたから
聞きたくはにわねぇ。
2度目の結婚式の招待状はいりませんから、
貯金に走る前に、勝手にお嫁にいってちょうだい」
女の30代はいずれにしても生き方の瀬戸際よねぇ・・・・
などと、2人が後部座席で溜息をつく。
その間に貞園のBMWが、アウトレットの広い駐車場へ滑り込んでいく。
日曜日の駐車場は、ほぼ満車状態になっている。
ようやく駐車に成功したのは、店舗群とはかなり距離のある空間だ。
好みのショップへ歩いて行くには、少々不便な場所になる。
「仕方ないわね。
時間を決めて、ここへ集まるということで別れましょう。
不倫中のあなたは『ローリーズファーム』。
バツイチは『デニムダンガリ』が専門。
わたしはなんといっても断然、『ロペ』です。
ということで60分後に、あそこに見えているカフェで落ち合いましょう。
時間にはまだ、たっぷり余裕があります。
再会した時点で、その後の相談をしましょう。
ということで、はい解散、解散」
『デニムダンガリー」
デニムが主体の、人気の国産ブランド子供服メーカー。
ダンガリ160は大人の女性にも支持されて人気。
『ローリーズファーム』20~30代女性がターゲット。
国内店舗数は、148店舗。
『ロペ』が支持する女性像は、
上品で、知的で、ポジティブな生き方を志向する現代的な若々しい女性。
上質な素材を使用し、心地良い服を提案。
そこにコンテンポラリーなものをミックスすることにより、常に新鮮で、
品のよさを両立させた。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第81話~85話 作家名:落合順平