からっ風と、繭の郷の子守唄 第81話~85話
友人が目で促した先に、純白の花嫁姿に見とれている千尋がいる。
なぜか一人ぽっちだ。
指を胸の前で組んだまま、チョコンと立ち尽くしている。
貞園の鋭い視線が、千尋の全身を見つめる。
上から下まで事細かに、舐めるように吟味しつくしていく。
(胸の膨らみはごく普通。
ウェストは適度にくびれている、腰の周りはふくよかだ。
どこにでも居るような、典型的な日本女性の体型だ。
いったい何があの日、私を惹きつけたのだろう。
30女の、男を知り尽くした熟成した雰囲気は、見当たらない。
といって、世間知らずのお嬢さんでもなさそうです。
なんの仕事をしているかな。
職業的な匂いが、漂っていないから不思議です。
さっきまで一緒にいたはずの、康平の姿が見えないのはどういう訳だ。
女をほったらかして、何をしているんだろう。
空気が読めない、最低な男だな、あのバカは。
女が雰囲気に酔いしれているときは、口説く絶好のチャンスだというのに。
フォローもせず、姿を消したままとは、理解できない。
呆れてものがいえなません。
そんなことだから、美和子に逃げらてしまうのよ。
あ・・・・関係ないか。いまこの場では・・・・うふふ)
頭上を舞ったウェディングブーケは、貞園の頭をはるかに越えていく。
20代半ばと思われる一人の女性の手に、すっぽりと収まる。
(受け取った人は、次に幸せになれるという。
投げないで、手渡すという選択肢もあるそうだ。
愛人女と、バツイチと、不倫中の友達に手渡すのには、無理がある。
よそ見はこのくらいにして、祝福に集中しましょうか。
花嫁は、まもなく4ヶ月に突入という身重です。
10年の長すぎた春に、終止符をうった最終手段が妊娠とは
思い切ったものがある。
まぁ、それでも先が見えない我々3人より、はるかにマシな選択だ。
これで台湾からやって来た、美人の同郷4姉妹も一人欠けた。
これからは、行き遅れの3人組になる。
次は誰が片付くのでしょう・・・・まさに、神のみぞ知る、です)
鐘を鳴らすため貞園が移動していく。
その途中、もういちど後方を振り返る。先ほどの場所に、千尋の姿はない。
結婚式を見つめていた、散策中のやじ馬たちもすっかり姿を消している。
揺れる木漏れ日と、静寂だけが教会の周りに戻って来た。
(いつのまにか、また消えてしまいました・・・
まぁいいでしょう、どうせきっと、また出会えるでしょう。
そのとき。なぜ私をひきつけるのか、ちゃんと見届けてあげます。
ライバルが登場したような気配があるもの、油断は禁物です。
うふふ・・・)
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第81話~85話 作家名:落合順平