からっ風と、繭の郷の子守唄 第81話~85話
「あなたって、最高ですね。
チャーミングなうえに機転が利くし、小悪魔みたいで尊敬しちゃいます」
「生活の知恵と言ってください。
長年の経験から生まれてくる、悪知恵の持ち主です、わたしは。
あ、自己紹介がまだでしたね。
あたしは台湾で生まれた貞園。テイちゃんと呼んでちょうだい」
「千尋と申します。
4年ほど京都で暮らしましたが、生まれたのは和歌山県の海辺の町です」
精算を済ませたふたりが、南に向かって歩きだす。
店舗が途絶えた先には、緑の芝生と、大きな池がひろがっている。
巨大なショッピングモールのど真ん中であることを、忘れさせてしまうほどの、
圧倒的な自然が、2人の目の前にひろがる。
広大な景色の大半は、いまも現役のゴルフコースとして使われている。
周囲にそびえる山々には、スキー場のゲレンデの跡が見える。
冬になるとこの一帯は、利便性に富んだウィンタースポーツの拠点に変る。
軽井沢の観光客数は、1000万人を超えると言われている。
ここは日本のリゾート文化の草分けだ。
年間を通して、抜群の集客力を保持してきた軽井沢町は、キリスト教文化の
「洗礼」により、「日本にあって日本ではない」独特の歴史と文化も
育んできた。
「猫も杓子も、軽井沢へ足を運ぶの。
軽井沢という地名自体がブランドなのよ。
お金持ち気分を味わったり、優越感に浸るためにここへやって来るの。
軽井沢72(軽井沢にある72ホールを誇るゴルフ場。女子プロ公式戦の開催地)へ
へゴルフに来るとなぜか私でも、ちょっとした優越感に浸ります。
人はやっぱりは、ブランドに弱いのかしら」
「真っ赤なBMWから降りてきた時のテイちゃんは、女優さんみたいでした。
ロペのブランドは、洗練された小粋で上品な都会の女というコンセプトです。
まさに、あなたにぴったりのブランドだと思います」
「いつのまに見られていたのかしら。わたしは全然、気がつかなかったけど」
「康平さんのスクーターとほとんど同時に、駐車場へ入りました。
2輪と4輪は停める場所が違いますので、少し離れた位置へ別れました。
先に気がついていた康平さんが、あの女は生まれついての性悪女だから
何があっても近づくなと、何度も念を押していました。
悪意が有って言ったのではないと思います。
わたしも一応、それなりに警戒していたつもりです」
「なるほど。ところがあのバックに見とれていて、
ついつい油断をしたわけだ」
「はい。突然、背後から声をかけられてびっくりしました。
でも、思っていた以上に綺麗な人ですし、実は、優しい人だと感じています」
「ありがとう。長く付き合いたいわねぇ、あんたと。
それにしても、康平には頭にくるわ。
必ずかたきをとってやるから。ふん!」
「はい。その件に関しては、わたしもお手伝いをいたします。
女を敵に回してしまうと、どれほど怖い思いをするの、
思い知らせてあげましょう。ふたりで・・・・
うふふ」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第81話~85話 作家名:落合順平