レイドリフト・ドラゴンメイド 第13話 キズナ砲弾
空に大きなガラスを浮かべ、ハンマーで割ったような、大きな穴だ。
その穴が、震える。
震えるたびに、ひび割れが広がり、割れた分は、さらに粉々になって消えていく。
その向こうに見えるのは、本物のフセン市だった。
いかなる次元のゆがみによる影響だろう。
割れ目からのぞくのは、街を高い空から見降ろした光景。
それが今まさに、燃え落ちようとしている。
「あのポルタが、突如現れた航空戦力の秘密なのですね」
フクロウの顔をかたどった兜をかぶる、銀色の姫騎士。
コンピュータネットワークにのみ現れ、今もスマホ画面から語りかけるオウルロード=久 編美。
彼女こそ、チェ連製量子世界の征服者だ。
征服者が指し示すものは、空にある。光あふれる自然豊かな量子世界と、夜の闇と火災に覆われようとしている現実世界が繋がる穴。
ポルタ。
今まで地球と異世界を結んで何度も開き、それに対処する民間企業、ポルタ・プロークルサートル社が活動することで、広まった名前だ。
ポルタ・プロークルサートルはラテン語で“門の先駆者“を意味する。
PP社と略され、ドラゴンメイド=真脇 達美にとっては兄の真脇 応隆が社長を務め、自分のボディの維持管理を行い、時々“仕事“にも駆り出される、わが社ともいえる。
頭上のポルタは、ガラスの様に割れながら広がり、零れ落ちる破片は光を放ちながら消えていく。
「データの出力量が、あのポルタの周りが最も多いです。
この世界に隠れたチェ連の科学者たちが、あそこにいるからだと思うのですが、どうです? 達美」
空港への空爆をいったん止め、ドラゴンメイドの猫の目が、ポルタを確認する。
魔力の流れ、そしてその源が見える。
「確かよ」
ポルタへは、チェ連の航空機が続々と飛び込んでいる。
強いエンジン推力を生かし、まっすぐ垂直に登っていくのは、カルコス重戦闘爆撃機だ。
ポルタをくぐれば、燃え盛る現実のフセン市に先端から落下することになる。
何割かは旋回行動もとれず、地面に激突するだろう。
それさえ攻撃になる、無人機らしい使い方だとドラゴンメイドは思った。
カルコス戦闘爆撃機の全長は21.5メートル。
それから考え得ると、穴はすでに直径200メートルはある。
現実世界側も黙っていはいない。
人間の肉眼では見えにくいが、サイボーグたちのレーダーには、弾幕やミサイルが雨あられと降り注ぐのが確認できた。
それでも量子で作られたチェ連空軍は諦めない。
ポルタをくぐる瞬間にチャフやフレアをまく。
チャフとは、アルミの破片など、レーダーの電波をあさっての方向に反射させるもの。
フレアは、自らのエンジンと同じような高温で燃える、マグネシウムなどの粉末をまくもの。
それらをまき散らすたびに、煙がポルタをおおい隠した。
分母が大きければ、分子も大きい。
その法則どうり、ポルタをくぐりぬける機影はあった。
だが、運のない機影はバラバラになって飛び散る。
その破片はポルタと同じようにガラス状に砕け、光となって消えていく。
ドラゴンメイドは、ふと不思議に思って、山で破壊された兵器を見てみた。
デジタルズームで見つけた戦車などは、実にリアルに燃え、ひん曲がり、残っている。
ポルタ近くの戦闘機と、山の戦車。
この差に関する答えは。
「どうやら、現実世界に近づいた量子兵器は、一度衝撃を受けるとエネルギーになるまで壊れるようです。
世界の違いによる物理法則の差を、越えられないのでしょう」
オウルロードの解析に、ドラゴンメイドは安心した。
「核兵器でもなんでも、破壊してしまえば無効化できるのね。よかった」
だが、同時に疑問も浮かんだ。
「量子兵器って、再生とかしないの? 」
そうだ。相手がプログラムなら、コピーと貼り付けでいくらでも増やせそうなものだ。
それに対するオウルロードの答えは。
「そんなことは、私がさせません! それに、だんだん調子が出てきました」
「そっか」
周りでは、これまで空港が送り出した戦闘機や戦闘ヘリが、敵を採ろうと集まってきている。
ドラゴンメイドは安心して、アンテナとなった手を向けた。
そんな彼女をめがけ、ミサイルの群れが殺到する。
それをドラゴンメイドは、リモートハックでつかみ、発射した相手に送り返す。
はたから見れば、両手を連続して前後に動かしているだけ。
そのたびに広い空の中で、相手は小さな炎となって消えていく。
空港を挟んだ空では、ワイバーン=鷲矢 武志が同じように戦い、そこでも小さな炎が飛び散った。
そう、歴史的に見ても小さな炎だとドラゴンメイドは思う。
建設的な意思を持たない、ずさんな計画を実行するためのタダの機械。
そのくせ、訓練のためリアルを追求した結果、爆炎は煙たいし、音はうるさい。
イラつかせる。
さらに腹立たしいことに、生徒会を召喚したチェ連の科学者たちは、今まで自分たちの目を逃れ、この世界で隠れていた。
そこで考えていたのが、こんなズサンな計画だったとは。
すでにドラゴンメイドは、次の彼らの動きを予測していた。
ヒントは空港のそばにある、観覧車を中心とした小さな遊園地。
観覧車の回りに、上下差の小さいジェットコースターが、じゃれついている。
ドラゴンメイドも、噂には聞いたことがある。
30年近く前まであった遊園地だ。
エピコス師団長が、子供のころに遊んだだろう場所。
現実世界では宇宙からの攻撃でなくなり、スラム街になっている。
カーリタースが、過去の再現にどれだけ拘ったのかがよく分かる。
それだけ過去に拘るなら、要塞には、あれがあるはず。
『こちら要塞の探索部隊。電磁波探知機に反応』
オートゾックスな無線で、メイトライ5の松瀬 信吾マネージャーから報告が流れた。
『要塞地下に、直径約50メートルの高エネルギー体が4つ。
対宇宙レーザー砲だと思われる。
これより、破壊を試みる』
対宇宙レーザー。地上から宇宙空間まで射程に収める、光の槍。
生徒会が召喚される数年前に、隕石の波状攻撃によって破壊された、スイッチアの守護神。
その隕石攻撃の影響が、現実世界で山を下りる際に見た、ブドウ畑のため池や、遊園地跡地だ。
「ドラゴンメイド! ワイバーン! 空港の航空機は私が預かります!
空港の入り口で合流しましょう」
オウルロードが、次の指示をくれた。
眼下の空港には、未だに手つかずの戦力が多数集中している。
滑走路には垂直離着陸ができるスフェラVTOL戦闘爆撃機や、レフコクリソス戦闘ヘリ、シデーロス輸送ヘリ。
空港のまわりは高さ10メートルの土壁がぐるりと回る。
入り口にはフリソス戦車が。内側にはリトス装甲車。そして間を埋める歩兵隊が不動の守りとなっている。
ドラゴンメイドとワイバーンは、その兵器を丸ごとではなく、数台ごとに破壊することで、全体的に足止めしていた。
「わたしたち、お邪魔だったかしら? 」
ドラゴンメイドのとぼけた質問に。
「いえ、誰がやっても同じだと思います」
オウルロードはおちゃらけて答えた。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第13話 キズナ砲弾 作家名:リューガ