レイドリフト・ドラゴンメイド 第13話 キズナ砲弾
車体前部に収められているのも、M134ミニガン。
放つのは、破壊力のある、鉄の弾。
後に続くのは、人型を追求した大型パワードスーツ、ドラゴンドレス。
歩兵のドラゴンマニキュア部隊を満載した、土色で大ぶりの4輪装甲車が何台も続く。
オシュコシュ L-ATV。
アメリカ軍の採用した、主力装甲車ハンビーの後継車両で、市販もされている。
共に、リモートハックと銃撃を駆使しつつ、前進する。
彼らが戦っている間に、ドラゴンメイドとワイバーンは、狭い谷を通り抜けた。
2人が飛び出すと同時にプン! と、鳴る小さな爆発音。
谷を抜けた時、道連れにしていた空気が一気に解放されたためにおこった音だ。
新幹線がトンネルから出た時などに、聞かれる。
だが、チェ連の初期的量子コンピュータはその隙を見逃さなかった。
5秒と待たず、機関砲の弾幕が迫る。
敵もさる者。対空車両が、なかなか急な坂道で陣取っていた。
弾幕は、サイボーグをとらえることはできない。
飛行機とは比べ物にならないほど小さい体で、思考をダイレクトに反映させる縦横無尽な機動でよけきった。
だが、対空車両は対空ミサイルを積んでいた。
迫りくる2本のミサイルは、音速をこえている!
ワイバーンは、掌だけをミサイルに向け、リモートハックを試みる。
ミサイルは、機動を大きくそらし、地面に突っ込んだ。
だが、ここからはそうはいかない。
あの、フセン市を見下ろす山岳要塞だ。
案の定、山肌から無数のミサイルが噴煙を上げた。
「達美ちゃん! チャフ! 」
ドラゴンメイドが着るオプション・ジェット・パックには、ミサイルを誘導するレーダーを迷わせるアルミ片や、熱監視センサーを迷わす熱源、すなわちチャフを散布することができる。
それをまく直前、ドラゴンメイドはワイバーンを追い越し、無数もミサイルの間に割り込んだ。
ワイバーンの目が、ぎょっとして見開かれる。
ドラゴンメイドが、自分の盾になるとは思わなかったからだ。
止める間もなくチャフが散布される。
ミサイルは、チャフに轢かれて、森にはずれていった。
「また来る! 」
ドラゴンメイドの言うとうりだ。
10発目がだめなら、20発目、30発目。というわけだ。
このままではチャフが尽きてしまう!
その時、幾筋ものレーザーがミサイルを貫いた。
振り向くと、緑と銀、2機のオーバオックスが下半身を4輪駆動にして、両腕のIRSレーザー砲を撃ちながら山肌を駆け下りてくる。
スキーマとイーグルロードだ。
これでメイトライ5が全員そろった!
2人について、レモン色のキッスフレッシュが随伴する。
「レモンの車両は、達美の専用車ですよ」とオウルロード。
高い走破性能だ。
というより、エクストリーム・スノーボードのように、雪を滑り降りてくる。
足を持つ車両とは、ここまですごいことができるのか。と、空を飛ぶ者達は自分たちの不明を思い知った。
木を揺らしながら、3台の味方はまっすぐドラゴンメイドの方へやって来る。
「助かるぅ! 」
ドラゴンメイドは嬉しくなった。
だが、すぐに合流は無理だと悟った。
3台のすぐ後ろで、白い雪が黙々と舞い上がりながら、木々を広い範囲で揺るがし、下りてくる。
「雪崩だ! 」
ワイバーンがそう言う言った時、要塞が雪崩に巻き込まれた。
だが、その雪崩は味方の車列さえ飲み込みそうだ!
3台の前に、レイドリフト2号の魔方陣が現れた。
3台はそれを踏み台にすると、トランポリンのように飛び上がり。山肌を駆け上がった。
山の尾根に飛び乗ると、雪崩をやり過ごし、その後は尾根を走りだす。
「そうだ」
ドラゴンメイドは、自分の専用車についている電子線機能を検索してみた。
昔ながらの無線、Wi-Fi、リモートハック機能。
「タケ君、私のキッスフレッシュにもリモートハック機能があるよ。
カーリ君を預かってもらおうよ」
確かに、カーリタースの巨体はワイバーンの両手をふさいでいる。
今は管理者権限により、重さや空気抵抗といった影響は与えない。
とはいえ、邪魔ではあった。
「今の達美専用車には、パパ……アウグルと1号、2号、シエロ君が乗っています。空きは十分です」
オウルロードの説明に、カーリタースは安心したように言う。
「わたしを抱えていては、自由に手が使えないでしょう。願わくば、この景色を壊さないように戦ってください」
ドラゴンメイドは、その心に少しだけ共感した。
「分かった。私が見ている」
カーリタースは、安心した顔になり、ワイバーンが手を離した。
ドラゴンメイド専用車からのリモートハックは、レモン色の光だった。
光はカーリタースを巨大な滑り台のようにのせ、おろしていく。
「あれ? ボルケーナさんは? 」
ワイバーンが聴いた。彼にとっては、ボルケーナは達美のいとこのお姉さんと言ったところ。
だから、さん付けなのだ。
確かに、さっきまで散々戦っていたボルケーナ分身体がいないのはおかしい。
それについて、オウルロードが、残念そうに答える。
「彼女の持つ身体的、異能力を含めた精神的情報量は、この世界では多すぎました。
触手を一本入れたところで、先端から激しい火花が散り、量子世界が維持できないことが確認されたのです」
カーリタースが車についた。
キッスフレッシュの天井が観音開きになっている。
中から現れたヒーロー達が、カーリタースを中に招いた。
「それにしても、オーバオックスと言いキッスフレッシュと言い、マークスレイと言い、PP社もメイトライ5もずいぶんゴージャスになったのね。何があったの? 」
下には山の空港。そこに並ぶ戦闘爆撃機隊を襲う、横殴りのプラズマ・レールガン。
そんな光の嵐となったドラゴンメイドの能天気な質問。
無線越しに、オウルロードが答える。
「すべて、あなた方、魔術学園生徒会が突然いなくなったからですよ。
それ以来、日本の治安維持能力に疑問符が付きました。
PP社とその関連団体も。
そこで、助成金付きで徹底的な戦力強化がなされたのです」
ドラゴンメイドは、その時、いきなり惨めな気持ちに襲われた。
フセン市が見えた。
あの街では、要塞を作る時に出た土砂で包んだ、掩蔽壕のような建物が目立つ。
市役所のほかに、デパートや、一番大きなホテル。
堤防のようなものが、道路を挟んでどこまでも伸びている。
その堤防の中に、商店街の店が収まっている。
フセン市の向こうに並んでいた宇宙船の廃棄場は、きれいになくなっていた。
あるのは、牛や羊の大好物である草にあふれた広大な平原地帯。
その向こうに、海がある。
チェ連最大の工業地帯は、まだ遠い。
きれいな砂浜だ。
「発見しました! 残りの科学者たち! 」
オウルロードが叫んだ。
「目標は、上です! 」
ワイバーンの足に収まったランナフォンから、ピンクの光が走ってそれを示す。
もう、主だった飛行機はいないはず。
ステルス機か? とも思ったが、それは違った。
鋭い、割れ目があった。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第13話 キズナ砲弾 作家名:リューガ