レイドリフト・ドラゴンメイド 第13話 キズナ砲弾
ドラゴンメイドは、それまでの旋回軌道から急降下に切り替え、空港から距離を取り、地上に降りた。
一般に航空機は、着陸する直前に、最も地上からの攻撃に弱くなる。
降りやすいように、少しずつ高度を下げれば、簡単に軌道を読まれてしまうからだ。
空港の周りはブドウ畑。家もまばらで土壁には木も生えている。
ドラゴンメイドはふと、カーリタースがマラソンする姿を思い浮かべた。
彼も、研究だけでなく、ここで走り込めば少しは痩せたのだろうか。
そんなことを考えながらも、速度を飛行時から大して変えることもなく、土壁沿いをジェットと足で走ろうとした。
だが、さすがにダメージがたまっていた。
どうしても、左右にぶれてしまう。
それでも土壁沿いに走って入口まで向かうと、戦車部隊の御出迎え。
彼らは、微動さえせず守りを続けている。
ドラゴンメイドは、彼らの射程圏に踏み込み、そのまま近づき、ぶつかるぎりぎりになってからブドウ畑に隠れた。
空港は今、ピンクに輝く球形の結界に覆われている。
電波の中心は、空港のど真ん中上空に浮かぶ、トンボ型ランナフォン。
結界は、ドラゴンメイドが隠れる畑まで覆っていた。
結界に触る。堅い感触で阻まれた。
今はこの空港全体が、オウルロードの支配下に置かれているのだ。
先ほどのドラゴンメイドの空爆で吹き飛んだ航空機。
その煙が、オウルロードの結界によって途中からで断ち切られ、結界の内部では固まっていた。
ブドウ畑は、空港へ続く道路を挟み、その向こうにも続いていく。
向こう側のブドウ畑が、風もないのに小さく揺らいだ。
揺らいだブドウ畑で、ワイバーンのゴーグルがちらりと輝く。
「タケ君」
安心を込めて、短い無線で答える。
そう思っていたら、レーダーに高速で近づく物体をとらえた。
かなり大きい。
それが、山から滑り降りるように近づいてくる。
敵味方識別装置が、味方と教えてくれる。
レモン色に塗られたキッスフレッシュ。
それが、道路から引きはがしたのであろう分厚いアスファルトに乗って、空中を飛んでいた。
オウルロードが、アスファルトを操っている。
まるで空飛ぶ絨毯のように、2人の前の道路に滑り込んだ。
レモンのキッスフレッシュは全長9.9m、全幅2.45m。
これが自分の専用車だと言われても、ドラゴンメイドは思わず威圧されてしまう大きさだ。
それをこれから、自分で動かさなければいけないのだ。
だが、ドアは手動で開けられる。
後部に観音開きのドアがある。
勢い良く開き、そこに黒いボディアーマーを着た二人のヒーローが顔を出した。
「ワイバーン! ドラゴンメイド! 早くこい! 」
素人目には同じに見えるかもしれない。
だが、レイドリフト1号=都丹素 巧は小柄な男子中学生で、アウグル=久 健太郎は大人の男性だ。
今のはアウグルが叫んだのだ。
アーマーのデザインも違う。
1号は、式典で着ていたロングコートを脱ぎ、体型にフィットした、体を小刻みに守るアーマーを着ている。
頭を守るのは、耳まで覆うヘルメット。スキー用ゴーグルのようなデザインで、視界に情報を映し出すディスプレー。口に牙の並んだマスク、面頬。
アウグルは全身、円柱をつなぎ合わせたアーマーを着ている。
胸や腰、腹回りも丸いアーマーの組み合わせで、頭は完全な球形だ。
肥満体の様なアーマーだが、アウグルの正体にして編美の養父である健太郎は引き締まった体型をしている。
このアーマーは彼の持つある能力を、文字どうり下支えするための物だ。
ワイバーンとドラゴンメイドがレモン色の装甲車に飛び込む。
真新しいペンキの臭いがした。
ドラゴンメイドの、いやアイドルチーム・メイトライ5のギター兼ボーカルである真脇 達美の専用車。
中は、ベーシックな……と言っても、国際的に見てもそれほど種類は無いが、水陸両用の兵員輸送車。その兵員輸送スペースそのものだった。
チェ連が生徒会をのせていた、リトス装甲輸送車とほぼおなじレイアウト。
ただし光は明るいLEDで、内装は明るい緑色。落ち着いた雰囲気にまとめられていた。
左右の壁に背を預け、向かい合う形のイスは、リトスよりは多少はマシなクッション。
一番奥の席に座っているのは、シエロとカーリタースだった。
手錠もなく、ただシートベルトだけをして。
座席の下には、水中で使うウォータージェットエンジンがあるため、隙間は無い。10.4トンの車体を時速120キロで泳がせる。
床のゴムマットには、まだ傷一つない。
その端にはロープを縛り付ける鉄の輪が固定され、それは今、大きなオリーブ色のコンテナを固定していた。
レイドリフト2号=狛菱 武産が、そのふたを開ける。
雪のように白い肌と、長い髪。
ツインテールだった髪は、今は頭の後で団子状にまとめている。
赤く輝くひとみ。
スマートな体を包む、しなやかでいて丈夫さを備えた、黒いレザーアーマー。
それに刻まれた白い魔界文字は、着た者の魔力によって自在に動く。
口を覆う、レイドリフトの証。1号とおそろいの面頬。
コンテナの中に収められている物は、直径40ミリの擲弾。すなわち、射程が約200メートル、当たった目標を拭き飛ばす砲弾に似ていた。
実際、彼女が横に置いているのはMGL140グレネードランチャーだ。
口径40ミリの砲弾を6連発できる、巨大なリボルバー。
だが、そのコンテナに書かれているのは、[投擲型ランナフォン]
ランナフォンを40ミリ擲弾と同じ要領で打ち出すための、ケースに収めた物だ。
1号とアウグルがMGL140グレネードランチャーを持っていた。
ドラゴンメイドにそれを渡したのは、1号だ。
「弾頭はランナフォンです。急いで装填してください」
そう言って1号は、自分のMGL140を持ち、その巨大なシリンダーを跳ね上げた。
砲弾が収まるところだ。
「装填する前に、シリンダーを回すゼンマイをまきます」
ゼンマイとは、昔のおもちゃにしか使われない技術ではない。
シリンダーを支える基部に、大きなゼンマイがある。
それを手で回しながら、1号とアウグルは説明する。
そして、ランナフォンをコンテナからだし、ランチャーのシリンダーに収めた。
「今の空港と兵器は、オウルロードが鹵獲してくれます。
その兵器と共に、要塞を攻め落とすのです」
この作戦が成功すれば、要塞を黙らせることができる」
ドラゴンメイドは、「わかった」とだけ言って、それに従った。
「友達を打ち出すんですか?! 」
1号の後では、アウグルとワイバーンが同じようなやり取りをしている。
作戦に異論を唱えたのは、ワイバーンだ。
それに対してアウグル=久健太郎、久 編美の養父は。
「そうだ。だから君に任せる」
ドラゴンメイドの装甲の下。
真脇 達美の心に温かい物が広がった。
この人は、鷲矢 武志という人間は、機械とか人とか関係なく、夢を持つ者を守ってくれる。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第13話 キズナ砲弾 作家名:リューガ