幸せタイムリミット
咲間:うん、わかった。
少彦:俺はな、この神社の神なんだ。
咲間:…へ?
少彦:頭がおかしいと思うならそう思え。でも事実なんだ。
咲間:…。
少彦:どう受け取るかは咲間に任せる、それは最初言った通りだ。でも今は俺の話を聞いてくれ。
咲間:…うん。
少彦:神社でお参りするとご利益があるっていうのを聞いたことがあると思う。それは神様が人間に小さな力を与えているからなんだ。その力を神様の間では、えーっと…生きるために必要な力で「精力」と呼んでいるんだ。でも神様だって精力が無限にあるわけじゃない。だから草や木、土や空気・水とか、自然から少しずつ力をもらってるんだ。もちろん動物からもな。
咲間:ってことは僕たち人間からも?
少彦:ああ、そうだ。でも神にはある決まりがあって、それは「人間と関わってはいけない」というものなんだ。
咲間:関わっちゃいけない?なんで?
少彦:それはな、動物の中でも人間が一番精力をもらいやすいんだ。にとってとても…えーっと…、「負担」って言ってわかるか?
咲間:?
少彦:なんというか、人間から力をもらい続けると…人間がしんどくなるんだよ。
咲間:辛いってこと?
少彦:そうだな、辛いことだ。それで、いずれ…。
咲間:いずれ?
少彦:………死んでしまう。
咲間:…え?
少彦:精力っていうのは人間が生きるのにも大切な力だ。それを奪ってしまうんだからな。
咲間:それ、止めるっていうのは?
少彦:無理らしい。これは神様が生きるのにも大切なことだから。
咲間:そっ、か…。
少彦:もう、わかるだろう?俺は神で、お前は人間だ。
咲間:でも、僕しんどくないよ?元気だよ?
少彦:内がそうでも外は違う。いや、本当はしんどいんじゃないのか?走るスピードが遅かったり、体力がなくなっている気がする。見た目からも活発さがなくなっているし。
咲間:そ、それは…。
少彦:本当はしんどいんだろう?
咲間:…うん。
少彦:な、俺と一緒にいるからだ。このままだったらお前は死んでしまう。だからさよならしなきゃいけない。
咲間:でも、そんなのやだよ離れたくない。
少彦:我儘言うな、死んでもいいのか?
咲間:でも…でも…、こんなの、急すぎるよ…。
少彦:…。
咲間:…。
少彦:…別に急じゃねえよ。
咲間:へ…?
少彦:ちょっと考えりゃ少しは気づくだろ、俺が普通の子供じゃないことぐらい。
咲間:そ、そんなのわかんないよ
少彦:ちょっとは考えたのか?考えてないだろ?だからわかんないんだよ。俺も世界中の子供がどうかわからないが薬学のことがわかる子供なんてそういないだろうし、神社にいつもいる子供も少ないだろ、というか0に近いと思うが。大人とか他の人から聞いたことあるか?テレビとかで一言でもそんなの聞いたことあるか?ないだろ?そりゃそんな子供いたら取り上げられるだろうからな。
咲間:ひ、ひこなくん…?
少彦:そういうふうにな、何も考えないところが嫌いなんだよ。
咲間:え…。
少彦:自分が周りに遊んでもらえなくて寂しいからって、俺のとこばっか来てよ。何かしたのか?周りに声かけたりとかしたのかよ。
咲間:それは…、
少彦:してないんだろ。
咲間:…うん。
少彦:やっぱり、弱虫で意気地なしだな。
咲間:だって
少彦:だってじゃない!…いいか、できるだけわかりやすく言うがちょっと難しいこと言うぞ。
咲間:う、うん…。
少彦:あのな、これからも生きていると悩み事とか苦手なこととかいう壁がお前の前に立ちはだかるだろう。その壁をどうするかはお前次第だ。壊すのか、よじ登って越えるのか、それか、避けていくのかとかな。他にも方法はあるだろうが、どれが正しいとか正しくないとかはない。その壁の厚さ、高さ、長さはバラバラだ、何一つ同じものなんてない。だから壁によってどうすればいいのかはその時しかわからない。ただその壁をどうするかでしてほしいことが一つある。全てを試してから避けろ。
咲間:全てを試す…?
少彦:そうだ。壁を壊してみたり、登って越えようとしたりするんだ。それがどうしても無理だったら避けろ、逃げ道を見つけるんだ。
咲間:無理だったら…。
少彦:咲間、お前は壁を壊そうとしたり登ってみようとしたか?
咲間:…してない。
少彦:だったらしなくちゃいけねえだろ、始めっから逃げちゃいけない避けちゃいけないだろ。…お前にこれをやる。
咲間:…鈴?
少彦:そうだ、俺の力が特別に入った鈴だ。つまり…お守りみたいなもんだな。これをいつも持ち歩いておけ、きっと勇気が出る。
咲間:ホントに…本当にお別れしなきゃいけないの…?
少彦:…ああ、本当にしなきゃいけないんだ。お前には、お前を待ってくれている親父さんがいる。親父さんのためにも一生懸命生きなきゃいけない、笑顔で暮らさなきゃいけない。
咲間:ひこなくん…ひこなくん!(少彦を抱きしめる/泣く)
少彦:さくま…(抱きしめ返す/つられて泣く)
咲間:僕…絶対友達作る…、作ったらここに来るよ…!だから待ってて…、絶対待っててね…。僕頑張るからね…!約束する…。
少彦:ああ、待ってる…。絶対作ってここに来いよ…。ちゃんと待ってる、何年かかってもな…、でも…お前の中に俺はいないだろうが…。
咲間:…それってどういう
少彦:我、彼(か)のものの覚えたるを消さむ、また彼のものの幸福を願わむ…。
咲間:ひこ…な…く…。(気絶)
少彦:咲間…、ごめんな。お前の中に俺はいなくても、俺の中にお前はずっとこの先も居るからな…。今までありがとう、頑張ってくれよ。
【時間経過】
隆志:咲間ー、咲間ー。あっ、またこんなところで寝て…。咲間、起きなさい本当に風邪引くぞ。
咲間:ん…んん…。お父さん…?
隆志:そうだ、ほら帰るぞ、もうこんな時間だ。
咲間:わかった…。
隆志:咲間…お前、泣いてたのか…?
咲間:え?別に泣いてないけど…。
隆志:じゃあなんでそんなに目が腫れてるんだ?涙の痕もあるし。
咲間:あれ、ほんとだ…。なんでだろ?でもなんともないよ。
隆志:そうか?ならいいが…。にしてもこんな時間までこんなところで寝て、ここは神様がいるんだぞ。ちゃんとお参りしてごめんなさいして帰ろうな。
咲間:はーい。
『二人でお参りをする』
隆志:それじゃあ帰ろうか。
咲間:うん!
隆志:お前何持ってるんだ?
咲間:え?(鈴を見て)…鈴?
隆志:なんで咲間が持ってたのに聞くんだよ。どうしたんだ?ここで拾ったのか?もらったのか?
咲間:なんだっけ…もらった、気がする…。
隆志:大丈夫か?本当に風邪引いてないだろうな。
咲間:大丈夫だよ、でも本当にもらった気がするんだ。なんか、大切な誰かに。
隆志:…そうか、
咲間:うん。
隆志:…咲間、今日は久しぶりに外食しようか。何が食べたい?
咲間:ホント!じゃあね、お寿司がいい!
隆志:お寿司か、いいな
『話しながら去っていく二人 二人を見送る少彦名神』
少彦:…。
天照:…少彦名神。
少彦:!天照大神様…。
天照:自分の正体を話したのですね。
少彦:…はい。どんな処罰でも受けます。
天照:何を言っているのですか?処罰は何もありませんよ。
少彦:え…、でも俺は正体を明かしt