ホットチョコレート
本当は、名前で呼びたい。親友だと思ってくれているのだから、呼んだっていいはずだ。
だが、それすらできないほど、俺は意気地なしで。
「アンタは昔から、家庭的で古風な女が好きだからなぁ」
彼女は俺を「 アンタ 」と呼ぶ。呼ばれるたび、その距離感にもやもやする。もやもやするだけだけれども。
「そうそう。でも、明るく元気で健康なおんなのこが一番!」
お前みたいな、とは言えそうにない。昔も、明日からも。本当にいやになる俺の弱気。
しばらくの間、お前は押しが弱いとか肝心なところでやけに冷めているだのとお小言をくらった。その彼女の熱心さに顔がゆるむ。俺のために一生懸命俺を叱る彼女。かわいいったらありゃしない。
「お前は、本当に誰かを好きになったことがないからいつも真剣に好きになって、真剣なまま冷めてしまう俺の気持ちなんてわからないよ」
あまりのかわいさに、つい、本音が出てしまった。理解してくれないのは当然なのに。彼女に振られるのが怖くて、それでも他の誰かでは満足できない贅沢な俺。最低な俺。
「アンタに好きだと言われた瞬間、女の子に恋の終わりがくるんだな。それもいやだな」
だらりと足をこちらへ彼女が伸ばしてきた。
彼女のくるぶしが俺の足に触れて、少しドキリとする。
「それも?」
「そうさ。でも、もっと嫌なのは、振られることだ。勇気を出したのに、それが報われないのは……怖いな」
「まるで、好きな人がいるみたいだね」
「いるよ。アタシの親友の旦那。……滑稽だろ」
「そんなこと」
「報われないことより、好きだとすら言えない自分がみじめで……」
突然、彼女は泣いた。それはやがて号泣となり、せきをきって話し始める。