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ホットチョコレート

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「好きだった。アタシ、あの二人が結婚する前から好きだったの!でも、あいつがあの子のこと好きだって、二人が両想いなのは知っていたし、親友から奪おうだなんて微塵も考えたことなかった!でも、この前、幸せそうな二人を見たら、急につらくなった。アタシ、あいつに告って、ちゃんと振られていれば……こんな……こんな……」
 泣いている彼女を見て、今が最大のチャンスだと冷静に思った。俺たちがいる、この小さなカフェは、彼女の涙で小さくざわめいていた。
きっと周りは完全に俺が泣かせたものと思っているのだろう。だが、俺には泣かせる勇気すらない。
今だって。
「落ち着いて。コーヒー飲みなよ」
 彼女がまだ半分しか飲んでいなかった残りのコーヒーをすすめるのが精一杯だった。
「うん・・・うん・・・苦い・・・泣けるくらい苦い・・・。」
「コーヒーなのか、コーヒー味の砂糖なのかわからないくらい砂糖を入れていたくせに」
「そこは察しろ」
 あいにく俺は、気の利いた言葉がすらすらと出てくる方ではない。
でも、そんな俺の言葉に、彼女は少しだけ落着きを取り戻したみたいだった。
「そっち頂戴。お前、ココア頼んでいたよな?」
「ホットチョコレートな」
 どうぞ、と完全に冷めてしまったホットチョコレートを渡した。
「話、聞くよ。今日はいつもと逆転。好きなだけ話しなよ」
「うん」
 彼女は涙を拭うよりも先に、ホットチョコレートに口をつけた。
「・・・苦い」
「うそつき」
 俺が静かに笑うと、彼女もつられて笑ってくれた。
彼女が誰かに恋をしていることを知っていた。だから言えなかったと、自分に言い訳をしてきたのだ。今みたいなチャンスはたくさんあったのに。
情熱的に彼女の心を彼から奪うチャンスは今まで散々転がっていたのに。
「まあ、いいか」
「何が?」
「何だと思う?」
「質問を質問で返すな」
 怒ったような表情をした彼女は、やっぱりものすごく可愛くみえた。
その彼女の心にじんわりと沁み込んでいくのが俺の理想なのかもしれない。
冷めていても甘さが体中に沁み込む、今日のホットチョコレートみたいに。






作品名:ホットチョコレート 作家名:高市よみ