ホットチョコレート
前の彼女と別れたのは、彼女が髪を茶色に染めたから。前の前の彼女と別れたのは、彼女が料理の下手な女の子だったから。そして、今日別れた彼女は、八重歯じゃなかったから。
どれもたいしたことではないのに、俺にとっては、それが一番重要なことなのだ。
「お前、まだ付き合って2か月だろ。別れるには早すぎ」
目の前に座っていた親友に、いつものように笑われてしまった。
俺の親友は、がさつで言葉使いが男みたいで、スカートも制服でしか穿いたことがない。戸籍上かろうじて、女性であると彼女をあまり知らない人間は思っているだろう。
本当は、艶のある黒髪が魅力的で、料理がとても上手で、笑うと見える八重歯がものすごくかわいらしい女の子であるということを知っている。
「3か月!」
「自信持つなよ」
「どうしてですかね、姐さん!」
いつものように、いつものカフェで失恋話を聞いてもらっている。
いつからか、それが当たり前になった。俺が、それを楽しみにしていると気付いたのは、もうずいぶんと前の話。
「お前の自己分析は?」
「浮気?」
「質問に質問で返すな」
「いやあ、本命がいるのに他の人と付き合うのがそもそも間違っている」
「そうなの?誰?」
彼女が、身を乗り出して聞き返してきた。つり目である彼女の俺を射抜いてくるかのような瞳に吸い込まれるようにして、すらすらと言えたらいいのに。
冗談でもいいから、目の前にいるよ、って。まあ、言えないから、誰かと付き合って、その女の子を本気で好きになろうとして失敗するのだけれど。
「お前の知らない女の子だよ」
彼女を名前で呼ぶのが恥ずかしくて、「 お前 」と呼んでいる。けれど、これはこれでなんだか亭主になれた気分でささやかな優越感があった。
どれもたいしたことではないのに、俺にとっては、それが一番重要なことなのだ。
「お前、まだ付き合って2か月だろ。別れるには早すぎ」
目の前に座っていた親友に、いつものように笑われてしまった。
俺の親友は、がさつで言葉使いが男みたいで、スカートも制服でしか穿いたことがない。戸籍上かろうじて、女性であると彼女をあまり知らない人間は思っているだろう。
本当は、艶のある黒髪が魅力的で、料理がとても上手で、笑うと見える八重歯がものすごくかわいらしい女の子であるということを知っている。
「3か月!」
「自信持つなよ」
「どうしてですかね、姐さん!」
いつものように、いつものカフェで失恋話を聞いてもらっている。
いつからか、それが当たり前になった。俺が、それを楽しみにしていると気付いたのは、もうずいぶんと前の話。
「お前の自己分析は?」
「浮気?」
「質問に質問で返すな」
「いやあ、本命がいるのに他の人と付き合うのがそもそも間違っている」
「そうなの?誰?」
彼女が、身を乗り出して聞き返してきた。つり目である彼女の俺を射抜いてくるかのような瞳に吸い込まれるようにして、すらすらと言えたらいいのに。
冗談でもいいから、目の前にいるよ、って。まあ、言えないから、誰かと付き合って、その女の子を本気で好きになろうとして失敗するのだけれど。
「お前の知らない女の子だよ」
彼女を名前で呼ぶのが恥ずかしくて、「 お前 」と呼んでいる。けれど、これはこれでなんだか亭主になれた気分でささやかな優越感があった。