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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 一、太陽の章

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下・花の精霊・3、精霊の求め



「いませんね――東も……西にも」
 太陽神補佐ヒキイは、すぐさま各神殿代表に捜索を依頼した。
「南か、人間界に、あればいいのですが……」
 もしなければ、北である。――そうなれば、状況は深刻だ。
 睡蓮などの花や草木の精霊は、地属の精霊である。精霊には、主が生み出し従わせるものと、個体のエネルギーの大きさや寿命の長さが高じて、自然に生じるものとがある。自然のものであれば、属性の長となるものが、精霊の存在を知らぬということはないはずだ。
 ところが地属の長である大地神シエンは、睡蓮の花の精霊などひとつも知らないという。
「ただ……人間界でセトと争った場所に、白い睡蓮を見たことがある。ラア……王と共に、降りたときだ」
 シエンが言う。――やはり、北なのか。
 それでも、人間界に連れられたのならば、いくらか手の打ちようはある。シエンはすぐに人間界へ捜索に向かった。
 報告を待つあいだ、ヒキイは知神ケオルと共にこれまで得た情報を整理する。
「新しい結界のため前のものを破った直後なら、どこからでも問題なく進入できたかもしれないな」
 ケオルが言うと、技神カナスが鋭い瞳を向けた。
「周囲に異変は感じられなかったわ」
 式のあいだ、カナスは神殿周辺の警戒にあたっていた。その責任を問われたように感じたのだろう。
「小さな精霊だったというなら……なかなか気付けないんじゃないか」
 ケオルの言葉にカナスが不服げに目を逸らす。もちろん彼女は、小さいものだからと見逃すようなミスを犯すはずがないと考えていた。
「――そのタイミングを図るほど計画的なものであった、と?」
 ヒキイの声は普段よりずっと低く、闇を湛える池をじっと映したまま問う。今度は、ケオルが答えに詰まった。
 そうだ、計画的であったとすれば大変な問題だ。結界の張替えは、基本的に王の即位時になされる。――つまり、ラアが、今年、王となる事を知っていたということになる。
 なぜ、どうやって、それらが知れたのか?
 誰かが、情報を流しているということなのか――いや、まさか……。
 しかし不思議なのは、ラアの姉も同時にさらわれているという事実だ。カムアの話を聞く限り、初めの目的はむしろそちらであったように思える。
 またそこで、ラアの姉が「自ら立ち歩いた」というのは、一体どういうことなのか?
 幻だったのではないか――そう考えたくなるほど、あまりにも突拍子のない話。……しかし事実、ラアの姉の姿はなく、ラアの行方も、ようとして知れない。
 ふたりは一体、どこに――。
 ヒキイは険しい表情を浮かべている。ふだん穏やかな彼の眼が、火属特有の鋭さを帯び始める。押し殺すような呼吸。……その後ろで、カムアは明らかに狼狽した様子で、土色になった身体の震えが目にも見え、よく立っていられると思わせるような状態だった。
 重い沈黙。とにかく、ただ無事であってほしい……。
 そのとき、人間界の捜索を終えたシエンが、南を捜索していた月神キレスを伴い、戻ってきた。
「人間界にも、……南にも、ない」
「やっぱり、北ね」
 そう呟いて黄金の槍を握ったカナスは、促すようにヒキイを見る。王が不在の今、神々の指揮を執るのは補佐である彼なのだ。
「――『月神』、あなたの力をお借りしたい。北で王の居場所を正確につかんで頂きたいのです」
 ヒキイは真っ先に、キレスを頼った。対象の気配を掴むなどの感覚に、彼が最も優れていると考えたのだろう。
「……わかったよ」こうなるとは思っていた。キレスが息をつき髪をかきあげる。
「俺も行こう」
 シエンの申し出に、ヒキイがうなずく。
「ぼ――」
「俺はもう一人の補佐とここで待機している。何か分かれば、補佐同士コンタクトを取ればいいだろう?」
 どうにか発しかけた言葉をケオルに遮られ、カムアはうつむくと震える唇を噛んだ。
「お願いします。では――」
「ちょっと、待てよ!」キレスが声を上げる。「北に殴りこむのに、たった四人か? 俺は、攻撃は無理。戦闘力不足じゃねーの」
「――北の目的がはっきりしない今、できれば戦闘は避けたいのです。多勢で向かい、下手に刺激しては王の命が危ぶまれます。
 東西の神殿代表にも、捜索を続けるとともに戦闘に備えるよう伝えています。もしものときは、すぐに呼びましょう」

 静まり返った庭に立ち尽くしたカムアは、今日与えられたばかりの補佐の杖を強く握り締めた。湧き出る震えと不安を鎮めようとするように。
 分かっている。自分が北へ行っても、出来ることなど何もない。守りの力は弱く、攻撃の力をまったく持たない自分には――でも……。
 握りしめた補佐の杖から、不安は押し込められるどころかより大きくなっていく。神権をあらわす聖なる杖と違って、幅のある、柱のような形をしたその杖。同じ杖を持つ補佐が、神々を引き連れて戦うというのに、自分は……。
 ラアと一緒にいたのに、止めることすらできなかった。
 王のためにと声で誓い、彼個人のためにと、より強く自分の中で誓ったばかりだというのに。
 何もできないなんて……。こんなときに――ラアの身が案じられるこんなときに……!
「カムア、一緒に来てくれ。もう一度、池を見よう」
 ケオルの声に、われに返る。初めて、残されたのが一人でないことを意識した。
 歩きだしたケオルに慌ててつづくと、彼は背を向けたままつぶやきに近い叱声を投げてきた。
「できることをやるしか、ないだろ」
 はっとした。……そうだ、彼の言うとおりだ。今は、いじけたり焦ったりしている場合ではない。力のないことを嘆く暇があれば、自分のできる範囲、精一杯のことをしなくては。
 カムアはぐっと目を瞑ると、湧き出る不安と強い後悔の念を、必死で奥へ追いやった。
「結界が張っていた状態で、精霊が進入した可能性を考えてみよう。何か……見えるかもしれない」
 一番の問題は、進入経路である。となれば、問題はこの場所なのではないか。
 この池は、大河から地中を通り水が引かれている。川は南から北へと流れているので、ちょうどこの池の奥に、川の水が神殿に入る部分がある。この池を満たしてから、神殿内を流れ他の池を満たし、反対側の池から北へと抜けている。
「確か周壁の真下の給水口に、結界を敷いているはずだ。それがあるかどうか、確認できるか?」
 ケオルが言った。今日、ラア自身の力で、その結界が更新されたはずである。
 カムアは池の水に腕を浸し、言われた場所を意識で探る。
「……ありました。でも……、地上の結界より、弱いです」
 カムアの言葉に、そんな事まで分かるのか、と感心しながら、
「現われたのが確かに精霊なら、己の力でここまで移動するとは考えにくい。そう命じた主の存在があるはずだが――ここを通ったなら、水属神の力が関係してるかもな」
 太陽神は元々、火と風を主にその力とするものだが、ラア自身、水属の力を用いるのが比較的得意でないようだった。加えて、こちら側の水属は、その長「水神セテト=ケネムウ」が長らく不在であり、このたびもその代理として、格下の第一級神が力を添えている。脆弱性を突かれたのか。
「キレスの――月属の力は、加わってないんだろ?」
「はい、ありません」