睡蓮の書 一、太陽の章
するとヒキイは、いつもするように身を屈め、ラアの目線に合わせると、静かに語りだす。
「ラア。あなたが王位を正式に継ぐまで、あとひと月となりましたね」
また長くなるな。ラアは予感したが、黙って聞く事にした。ヒキイは続ける。
「王となるために知らなければならないことが、まだまだたくさんありますね。……ラア、これから一ヶ月間、私にも成さねばならない、大切な任務があります。それなので、午後の学習の時間を、別の者に任せることにしたのです」
ラアがぱちぱちと瞬きする。
「え。それって……、新しい人が来るってこと!?」
ヒキイは静かにうなずく。
やった! ラアは思わず声を上げた。また新しい人と会える! その喜びで胸がいっぱいになって、その後ヒキイが何を話していたか、さっぱり耳に入ってこなかった。
最近、新しい出会いが増えた。たくさんの出会い――王となるために。
人と会うことは、たくさんのことを知ること。その人のこと、その力のこと。ふたつはどちらも同じ、切り離すことのできない大切なもの。自分の中に、小さな火になって灯る、静かな光になって照る、さまざまな力。
四属すべての力を有し、多くの神を率いて戦う、この地の王。力を得、そして自由を得る。
そうだ、あと、たったひと月。カムアに隠していることも、もうすぐ打ち明けられる。なんて素晴らしいことだろう!
ラアは躍り上がるように庭園を駆ける。楽しいことに夢中で、……その先の落とし穴のことなんて、ちっとも想像できなかった。
作品名:睡蓮の書 一、太陽の章 作家名:文目ゆうき