LOVE FOOL・中編
戸惑うクロエなど介せず、男は手にしていた蝋燭の火を横に薙ぐと、火の粉が闇に舞う。
その先に浮かび上がるのは円卓。
上には金色と銀色の駒。赤と黒の盤が用意されていた。
クロエにチェスの経験は無かったが、通常は白と黒の異色同型の駒。
よほど高価な品なのか銀色の駒は指輪を金色は薔薇を象徴として、造形も微かに異なる。
芸術品としても価値のありそうな品だった。
クロエは銀色のキングを手に取りながらにっこりと微笑む。
「ルールを教えてくれるならお相手するけど。やはり出口は自分で見つけるわ。
貴方、約束を守りそうにないもの」
向かい合わせに座り、見様見まねで駒を並べ始めるクロエに男は愉快そうにくつくつと肩を震わせ笑った。
真っ赤な口元と細く裂けた眼差しの奥に揺らぐ漆黒が色を増す。
「酷いな、だがその通りだ」
END。
作品名:LOVE FOOL・中編 作家名:弥彦 亨