返信不要。
ある日私はケガをした。
ロッカーに太ももをぶつけて、内出血をし
トマに怒られてしまった。
「スカートは1つ折りまでだって約束したよな。
じゃあなんでこんなところをケガするんだ!
俺のいないところでスカート短くしてるんだろ!!
そうやって男を、さそってるんだろ!」
ちがう、と言ってもトマの炎は止まらない。
「浮気してみろ、ひどい目に合わせてやる!
裸にして電柱にくくりつけて、放置してやる!
みんながお前を見て、やられまくるだろうな
でもお前はそれが嬉しいんだろ!
浮気したいならそれくらい覚悟しろよ」
私は、悲しくなった。
ちがう、としか言えなかった。
そして、トマがこんなに悲しいことを言ってしまうのは、家庭環境が複雑なせいであり
私がうまくできないからだ
と思った。
部屋の空気が、埃っぽくて咳をした。
私はトマが困らないように、女子大に入学した。
女子大は、特殊な場所だった。
恋バナと悪口に身を削り
イケてる軍団に媚を売り
勉強はしなくてもよかった。
私は一人の友達をつくり、トマとの時間を邪魔されないように、学校内でのみ仲良くした。
トマはよく私に怒った。
私は平和主義者といえば聞こえはいいのだが、
なかなか自分の意思を強く持ち行動することができない、という性格。
自分でもコンプレックスに思っていても、
どうしても強いものに惹かれてしまう。
トマの怒りは、私にも原因がある…と
ある種 楽観的にとらえていた。
ある日トマは、今までで一番怒った。
それは何故そうなったのか、もう思い出せないほどささいなきっかけで。
怒声と同時に、人生で一番の頬の痛み。
本当に私は誰にも殴られたことがなく
なんて平和ボケの楽観バカなのかと、
頬を押さえながら痛感した。
トマは、車内で吹き飛んだ私を横目に
「お前が悪いんだぞ」と呟き車を発進させた。
「この恋は命がけ」と心に浮かんだ。
川の近くでトマは車を停めた。
私は20年間、いろんなところに行ったと思っていたけど、
その川は見たこともないような場所だった。
トマが
「俺を怒らせたからには、ここからは裸で歩いて帰れ」
と言い、助手席の私を超えてドアを開けた。
私は恐怖のあまり、
「私にはトマがわからない」と言ったが
それは正解ではなかった。
彼は、
「別れるのか」
「そうか、見捨てるんだな」
「じゃあ俺は、ここで死ぬよ」
「一人の男の人生をめちゃくちゃにしたこと、覚えておけよ」
「お前はこんなに人を傷つけて、絶対にこれから幸せになんてなれない」
散々、呪いの言葉を吐いた。
私は、ただただ悲しかった。
なぜこんな言葉を思いつく酷い人を好きになったのか?
果たして今も彼を好きと言えるのか?
それは恐怖心をごまかしているだけなのか?
なぜこの人はこんなに辛そうなのか?
涙が止まらなかった。
不意に、彼は涙にまみれた私を
めちゃくちゃに愛した。
愛とはもう呼べないドロドロをもって、私を制した。
私の心は、死んだ。
「彼が飽きるのを、待てばいいんだ」と。