返信不要。
彼はその後、すこし優しくなり冷たくなった。
夜、彼の仕事が終わるのを
彼の家で待っている日々が続いた。
不思議と、嫌ではなかった。
彼の母親は、私を拒まなかったし
くだらない話をすることで気は紛れた。
なにより、彼の母親は血の通った人間だと確認する作業は
私の精神状態を保つ方法の一つだった。
しかし奴は、帰ってこない日もあった。
そんなあとは決まって、
「今度2連休があるから旅行にでも行くか」
と、柄にもない優しい言葉を吐いた。
奴は、ゴムをつけない。
付き合って1年後、もう不要になったらしい。
私は、人間だった。
妊娠をした。
産婦人科にいき、エコーをとった。
まだまだ全然かたちにはなってないけど、
この点が赤ちゃんだと
先生が教えてくれた。
私は、いつの間にか
いのちの入れ物になっていたことが
うれしくて心が震えた。
それを伝えた私は耳を疑った。
「産みたい?好きにしていいよ」
私は実の両親に妊娠を相談したところ、烈火のごとくおこられた。
産めるはずが、なかった。
手術をした後、私は毎晩のように夢を見た。
目の中が真っ黒になった赤ちゃんが、どこまでも追いかけてくる。
そして「ごめんなさい!ごめんなさい!」
と叫びながら飛び起きる。
その間も奴は、私の隣で、その様子を無視して寝ている。
しかし、たまに良心の呵責があるようで、ぽんぽんと頭をなで、すぐに寝る。
飛び起きる私に、奴のケータイが目に飛び込んだ。
歪んで見えた。
最近ちらばっていた終わりのヒントの、
かけらを集めてみることにした。