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からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話

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 「荷受所の後ろ。換気塔のついた赤い屋根は乾繭所です。
 農家から送られてきた繭は、まだ生きています。
 そのまま置いておくと、蛾が穴を開けて、繭から出てきてしまいます。
 繭を長期保管できるよう、熱風で乾燥させます。
 この行程を「乾繭(かんけん)」と呼びます。
 碓氷製糸の乾繭機は、多段バンド式という形を取っています。
 ベルトコンベアの上を繭が移動しながら、乾燥していきます。
 投入口は2階にあり、取出口は1階です。
 青い壁の腰折れ屋根は、乾繭を保存しておくための倉庫です。
 あら・・・・説明が、まるで中途半端なガイドさんです。
 でもここで私は生まれてはじめて、糸引きの仕事を覚えました。
 ここが、今の私を育ててくれた原点です」

 『どうぞ』と千尋が、入口のドアを開ける。
日本中から届く生繭がどんな風に生糸になり、どんな形で出荷されていくのか、
製糸工場での7つの工程を、千尋が説明し始める。

 「全国各地から届いた袋詰めされた生繭は、「荷受け場」へ届きます。
 蚕品種ごとに、品質管理をおこないます。
 選除繭(せんじょけん)が、繭の最初の工程です。
 汚れや欠点のある繭の割合を調べ、品質の確認を行います。 
 
 第2段階の「乾繭(かんけん)」です。
 繭に熱風を当てて、繭の内部にいる蛹を殺します。
 金網製のコンベアーに載せられて、30分ほどかけて乾燥機の中を移動します。
 上の段は、最高125度の高温。下の段は、60度。
 2段階の乾燥が30分ほど続きます。
 繭はこの工程を5~6時間かけて、5往復します。
 これだけの時間をかけて、乾繭の作業がようやく完了します。
 繭の中の蛹は、放っておくと蛾になり、繭をやぶって飛び立ちます。
 破れた繭は汚れて品質が低下してしあみます。
 こうした繭は、生糸に適しません。
 そのために、長い時間をかけてこうして、しっかり乾燥させます。
 繭が汚れるのを防ぎ、保管中に、カビが発生しないようにしています。

 死んだ蛹も、ちゃんと再利用されます。
 新潟県小千谷の錦鯉のエサや、釣りの練エサの材料。
 長野県伊那で作られる、蛹の佃煮などの材料として利用されます。
 乾繭を終えた繭はその後、倉庫へ移されます。
 品種や季節(何年、春、夏、秋など)、生産地域などで分類します。
 この時点で10kgほど有った繭は、6割ほど減り、4kgになってしまいます。
 そこから生糸になるのは。およそ2kg。
 2kgの生糸から、反物が2反作ることができます。
 一反の絹織物に必要な生糸は、およそ1kgです。
 1kgの生糸を作るのに必要な繭は、約2600粒。
 かなりの量の繭を使わないと、1反の生地ができません。
 その数の繭を算出するのに必要なお蚕さんは、約2700頭。
 カイコは匹と数えず、家畜のように。1頭、2頭と数えます」