からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話
「2700頭!。一反の絹のために、気の遠くなるような蚕が必要なんだ」
「手で糸を引く仕事は、もっと気の遠くなる作業です。
最初の頃は、いくら頑張っても一日に、200gしか引けませんでした。
乾繭を終えた繭は「選繭(せんけん)台」に乗せられます。
下から光を当てて透かし、汚れた繭をひとつひとつ手で取り除いていきます。
通常の繭よりひとまわり大きい玉繭(二頭の蚕がひとつの繭を作ったもの)
はよけて、紬用として使うため別の場所へ集めます。
蚕の飼育は、大きく分けて年に4回。
春蚕(はるご)は5月。夏蚕(なつご)は6月。
初秋蚕(しょしゅうさん)は7月。晩秋蚕(ばんしゅうさん)は8月。
季節ごとに、呼び方が変わります。
これらの繭を常に貯蔵しておくため、巨大な設備が必要になります」
製糸場はある意味で、巨大な繭の倉庫になるんです」
「富岡市にある、富岡製糸場の2つのまゆ倉庫も、実に巨大だ。
東繭倉庫と西繭倉庫。どちらもともに長さが114mもある。
高さ14m、奥行きが12m。
メートル法で設計されたものを、日本の棟梁たちが、
尺貫法に書き直して造ったそうです。
柱は32cmの杉材で、梁は松材。
屋根瓦は本工場も含めて総計で22万枚。
当時の養蚕は、年に1回の「掃き立て(収繭)」だったそうです。
繭を一年間収納しておくため、巨大な「繭倉庫」が2棟も必要になった。
と世界遺産入りを目指している富岡製糸場の、ホームページに、
詳細な記述がありました」
「素敵ですねぇ。絹に関しての知識が豊富になってきたようです」
「織姫さんと付き合うための勉強です。
このくらい勉強しておかないと、あなたに笑われてしまいますから」
「うふふ。残念です。
私は織姫ではなく、ただの糸取り女です。
どなたか別にいらっしゃるのかしら。
いまどきに機で絹などを織る、美人の織姫さんが」
「あ、失敗した・・・・。やはり一夜漬けには、無理があるようだ」
「ゆっくり製糸場を案内しようと思ったけれど、私も飽きてきました。
お天気も良さそうですし、どこかツーリングに出かけませんか。
あなたのスクーターのバックシートって、とっても居心地がいいんですもの。
病みつきになってしまいました。ねぇ、そうしましょう」
「そんな可能性も有ると思って、君のぶんのヘルメットも用意してきた」
「さすが康平くん。あたしの想いが伝わっています。
実は先日とはまた別に、ツーリング用のパンツを買ってしまいました。
すぐに履き替えてまいります。
工場の表で、10分後にまた落ち合いましょう」
「せっかくの工場見学の途中だろう?
もうすこし、君のガイドも聞きたかったなぁ。
繭の工程に、若干だけど、興味があるんだけどなぁ・・・・」
「私の詰まらない説明を、どうしても聞きたいの、あなたは?。
3番目の工程で選繭(せんけん)を終えた繭は、
生糸にするために4番目の煮繭(しゃけん)をおこないます。
わかるわね、お湯で煮て、繭を柔らかくする工程です。
5番目は繰糸(そうし)。
柔らかくなった繭から、糸口を見つけ出します。
生糸を引き出すための準備段階です。これもまたお湯の中での作業です。
自動操糸機で引き出された生糸を、別の器械で大枠に巻き直す工程が
6番目の、揚返しという作業です。
大枠からはずし、ほどけないように糸留めして、綛(かせ)という
単位で束ねます。
プラスチック製のボビンに巻き取り、出荷に便利な形にすることが、
7番目の仕上げの工程です。
以上で説明は、終わりです。
メールでのちほど詳しく書き送りますから、それで読んでください。
では座ぐり女が、ツーリングのための着替えに、
行ってまいります~!」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話 作家名:落合順平