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からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話

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 碓氷製糸場は、碓氷と安中の農家の出資で建設されたものだ。
組合員は、およそ400人。
現在も操業を続けている、現役の製糸工場だ。
いまから50~60年前、全国には、たくさんの組合製糸場と製糸業社が有った。
絹繊維産業が衰退を続ける中、ほとんどの工場が姿を消した。
残っているのはここの碓氷製糸場と、山形県にもう一つ。
小規模の繊維工場が残っているだけだ。
碓氷製糸も時代の波に押されて、一度、廃業している。
当時の松井田町長をはじめ、議員たちが、養蚕業と製糸の存続のため、
金を出し合い、1959年に組合として再発足をしている。

 中国などから、安い絹織物や生糸が輸入されるようになったことが、
日本の製糸業を窮地に追い込んだ。
一度も復活することなく、日本の養蚕業は衰退の一途をたどっていく。
50年前。群馬県内だけでも、養蚕農家は、80,000戸以上もあった。
それがいまでは、全国にわずか、1,020戸(2010年の調査)
碓氷・安中地域の飼育農家は70戸にまで激減している。

 それでも碓氷製糸場は、いまだに動いている。
全国の13県から、230トンの繭が碓氷製糸場へ運ばれてくる。
年間を通じ、45,000㎏の生糸がここで生産されている。

 碓氷製糸場が、前方に近づいてきた。
工場は、松井田市街の河岸段丘の下段に建っている。
碓氷川の、河原に近い場所だ。
大量のお湯を使うため、工場は水を確保しやすい川の近くに建てられる。

 シャッターの付いている建物が、荷受所だ。
袋詰めで運ばれてくる繭を、2階の部分で受け取る。
荷受所が2階部分に有るのは、その後の行程に密接な関係がある。
その理由はまた、のちほど詳しく説明することにしょう。
とりあえず。千尋と行きあうのが先決だ。
道を下りきったその先で、麦わら帽子をかぶった千尋が待っていた。

 「うふ。早めの到着、ご苦労さま。
 私も待ちきれず、30分前から、坂道を行ったり来たりしていました。
 お散歩なんか、滅多にしたことがないくせに。
 変ですね。わたしも、うふっ」

 今日の千尋は、膝が少しだけ見える丈のスカートを履いている。
本人が言うように、パンツは苦手のようだ。
いつもワンピースかスカートを履いているのも、なぜか頷ける気がする。

 「足元ばかり見つめないで下さい。恥ずかしいわ。
 若い頃は何も考えず、素足にミニスカートで飛び回っていました。
 でもね・・・・30代が近づいてくると、何かが大きく変わって来るの。
 体型の変化もそのひとつ。
 お腹がポッコリしてきたとか、お尻が下がってきたとか・・・
 いつのまにか、着やすいものを中心に選びはじめている自分がいます。
 あら、やだ。朝から何を言っているのかしら。あたしったら!」

 山間の涼しい空気が立ち込めている中。
千尋が麦わら帽子で。あわてて顔を覆い隠す・・・
『そんなに見ないでよ~』と恥ずかしそうに、身体を小さくしていく。