からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話
「それって。女の子なら誰でも憧れている、
軽井沢聖パウロカトリック教会のことでしょう。
歩いていけるの、ここから!
へぇぇ・・・・その恋人たちが夢見る聖地まで。
まるで夢のようなお話です。
お茶はこの辺りでやめて、すぐにいきましょうよ、ねぇ!」
千尋が嬉しそうに立ち上がる。
今日に限りなぜか行動にまで、俊敏なものが見られる。
快晴そのものの、今日の陽気のせいなのか。
それとも、心地良い刺激をたっぷりと受けてきた後部座席によるものなのか、
康平にはよくわからない。
(しかし。それでもひとつだけ、はっきりとしていることがある。
今日の彼女は無邪気そのものだ。まるで10代の女の子のようだ・・。)
軽井沢聖パウロカトリック教会の設立は、昭和10年。
当時の教会のほとんどが「プロテスタント宗派」のものだったため、
英国人神父のレオ・ワルドが、「カトリック信者」のための教会設立を
と強く嘆願した。
「万平ホテル」の創始者、佐藤万平氏がレオ.ワルドの熱心な想いを知り、
教会建設のための土地を寄付し、米国人建築家のアントニオ.レーモンドが
設計して、聖パウロカトリック教会が誕生した。
軽井沢の教会で結婚式をあげるブームを作り出したのは、
聖パウロカトリック教会と、カルロス司祭だ。
ここへ赴任したカルロス司祭は、一定の条件さえ満たせば信仰や宗派を問わず、
結婚式をあげる許可を出した。
堀辰夫氏の小説「木の十字架」にも、聖パウロカトリック教会が登場する。
『聖パウロで結婚すると多くの人たちから祝福される』と書いた。
カルロス司祭の先進的な考え方と、小説の名言は、いまだに根強く、
この地で生き続けている。
カラ松のうっそうとした林の先に、傾斜の強い三角屋根が見える。
大きな尖塔をもった木造の教会が、静寂の中に佇んでいる。
まるで山小屋のような趣がある。
ヨーロッパの田舎町で、よく見かけるような雰囲気の教会。
それが『愛の教会』と呼ばれている、軽井沢聖パウロカトリック教会だ。
「康平くん。ほら見て、中庭に純白の花嫁さん!」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話 作家名:落合順平