LOVE FOOL・前編
僅かに残った体液も黒く変色した肉壁から溢れ、萎んだ。
やがてそれは片鱗無く存在を失い、男が触れたと云うだけで。
ニーナという名の少女に召喚される筈だった悪魔は、いとも容易く地上からも、地獄からも消滅した。
掌に残った粘液を舐め取り、彼は再び十字路を前進す。
一歩踏み出す度、闇を照らす街の灯が砕け暗黒が翼のごとく地面に広がる。
天高く頭をもたげる太陽でさえ打ち払う事は出来ない。
闇の羽根は町全体を覆い、住民の魂を次々と喰らうだろう。
正確には浸蝕。
全てを腐らせ、全てを奪う。
彼こそが地獄の中でも悪名高い腐喰の王。
「ベイビー。
焦らし過ぎると全て奪ってしまうよ」
そう哄笑し、彼…バアル・ゼブルは世界に降臨した。
END.
作品名:LOVE FOOL・前編 作家名:弥彦 亨